□予感。
1ページ/3ページ

一生懸命理由を探そうとしてた。
で、理由なんて勿論なくて。
誰かにそれが恋だと言われたら、きっと、俺は死にたくなってしまう。
そんなことになったらきっと、死ぬほどツライから。

『予感』


「…はい…」
ガラガラと引き戸が開いて、
ヨロヨロと今にも倒れそうに三橋が現れる。

「あ、あがって」

視線を外したまま、三橋が笑っているような泣いているような顔で言う。

…いやもう慣れたけど。この不可解な表情には。

「…調子」
呟くと、三橋の背中がビクっと上がる。

「悪そうだな」
「う、そんなこと…ない だいじょうぶ」
三橋がへらっと笑って、玄関から上がる。

「…お邪魔します。…今日、オマエの母親は?」
「もうすぐ、帰ってくると思うけど…お茶、淹れる」

俺も靴を脱いで上がる。三橋の家にあがるのは二度目だ。静かで、小奇麗な家。
で、コイツはなんだか、お茶を淹れるらしい。…

桐青の試合が終わって、次の日。
泉や田島達と一緒に昼休み様子をうかがうつもりが、
委員会行事のせいで俺だけ行けなかった。
その代わりに放課後寄ることにし
たけど、

…やっぱ、来なきゃよかったか。
なんかコイツすげぇ具合悪そうだし。

花井は元気だったって言っていたけど、足元すらふらついてる。

「ど、どうぞ座って…ください」
なんで敬語なんだ。
言われるままソファに座る。
花井が持って行ったという新聞が机に散らばっている。
ふと、コイツ皆と、昼休みはどんな会話したんだろうなと、
沈黙のなか思う。

田島とかには結構普通に喋んのにな。なんで俺には――

がしゃ、ん

「…おい」
台所からわりと大きな音。
お茶を淹れてくれるのはいいけど、
本当に漫画みたいに、ティーカップを割ってしまいそうな不器用さがありありと想像できた。

「みはし」

台所に近づくと、危なげな背中があからさまにビクっと動いた。
いや、…そう警戒されても困るんだけど俺――苦い気持ちをかみ殺す。

「俺手伝うけど」
「い…いいいいです」
「オマエの『いいです』は気にしないことにしてるから」
「だっだっ、だってあべくん」

手伝おうと足を踏み出した俺を必死に止める。
「なんだよ」
「…は、お客様…だから」

――。

ぷっ
わ、笑える。

「…そか」
俺お客様だったのか。
早いとこ渡すもん渡して帰ろうと思ってたけど。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ