脱色駄文
□止まった振り子時計
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何時だったか、はっきりとは思い出せないけれど、確かに何処かで鳴っていた、振り子時計の揺れ動く音が止まった。
カチカチと耳障りだった音が消え、静寂が僕を包んだ。
そして漸く世界は静かになったのだ。
『止まった振り子時計』
ザエルアポロに「気味が悪いと思った方が良い」と言われてから、俺はテスラを気を付けて見るようになった。
そして、気付いた事が有る。
テスラは俺の前以外では笑わない。
恐ろしい程、良く出来た作り笑い。
気味が悪い程、造り上げられた仮面の笑顔。
テスラには、それが貼り付いていた。
「テスラ、笑え」
「は?」
俺の突飛な発言に、テスラは目を丸くして固まった。
しかし、次の瞬間には、俺には見せる、何時もの笑顔を湛えた。
「チッ……」
やっぱりか。
俺の前では笑えんだな。
「?どうなさったのですか……?」
いきなり『笑え』と言ったり、言われた通り笑えば舌打ちされたり、テスラは訳が解らないのだろう、俺の顔を覗き込んだ。
「何でもねぇ。それより、俺はザエルアポロんトコ行って来る」
まぁコレについての解決策は、アイツに聞いた方が良さそうだしな。
何せ、アイツが俺に言ってきたんだからよ。
「では…」
「お前は付いて来んな」
テスラの「僕もお供します」の前に、俺は言い切った。
「はい……」
テスラはそれを聞くなり、しゅんとなった。
う、可愛い……
「直ぐ帰る。待ってろ」
「ハイ!」
たったソレだけの言葉に、テスラは目に見えて喜んで、無邪気に笑った。
何でその笑顔が、他のヤツに出来無いんだ。
いや、不特定多数のヤツに、こんな風に笑ってたら、それはそれで気が気で無いが……
そんな事を考えながら、俺は自室をあとにした。
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