脱色駄文

□テスラの受難
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珍しく、彼から血の匂いがしたものだから、思わず声を掛けたのが、このイタズラのきっかけ。

















『テスラの受難』


「どうしたの?珍しく血の匂いなんか纏ってさぁ…」


ある日、一人で廊下を歩いていたら、擦れ違いざまにザエルアポロ様に呼び止められた。

不気味な空気を醸し出している。
何時も以上に。


「何かご用でしょうか?ザエルアポロ様」

彼に向き直ると、不快感を悟られないように、出来うる限りの笑顔を作る。


作り笑いはお互い様なので、まぁ良いだろう。

「別に。
君が血の匂いさせてるのって、珍しいからね」

ザエルアポロ様のニコニコ笑い、正直気持ち悪い。


「そうですか?特に何とも思いませんが」

この顔を維持するの、結構面倒なんで、早く帰らせて下さい、というオーラを出してみる。


「口元、血が付いてるよ」

「えっ!?」

慌てて口元に手をやる。

してやったり顔のザエルアポロ様の様子で、嵌められた事に気が付いた。


「手、貸して?」


嫌な予感はかなりするが、相手は十刃。
僕に拒否権は無い。



「………」

無言で、素直に手を差し出した。
無意識に左手を。


「右手」


彼は、ニコリと笑って、僕の出した左手を横に避けた。


ザエルアポロ様は、鋭くて困る。

自分の無意識に感謝していたというのに、それにさえ気付くなんて、反則だ。



「はい……」

仕方無く、右手を出す。

「良く出来ました」


うわぁ、むか……

頭の中で言い掛けて止めた。
顔に出ていない事を祈るばかりだ。



スル……

「!?!」


考えている間に、ザエルアポロ様は僕の手袋を取り去った。







「ふ〜ん。そういう事ねぇ……」





廊下にザエルアポロ様の、嫌味な声が響いた。















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