創作駄文

□鎮魂の旋律
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序曲――


俺はあの曲が好きだ。

だが、俺はあの曲を好きになれない。


ピアノの白の鍵盤をいっぺんに叩く、彼の無骨で、それでいて手入れされた指は、気に入っているけれど……



彼の作る曲は、必ずメロディアスな不協和音部を含んでいる。
この不協和音は、不快感擦れ擦れの際どい感覚を残し、俺を蝕んでいる。


彼が奏でる不協和音は、音色が濁っている訳では無いのに、どうして、こんな気持ちになるのだろう?

心の奥底が、黒々と濁っていくような気さえする。


そう思うのは、何故なのだろうか……?

幾年月、思い悩んだのだろうか……?


君の隣、共にいた時間、重ねられた記憶は、良いものだけとは限らなくて、俺を追い詰めていく。





だけど俺は、それを望んでいるのかもしれない。
追い詰められる事など解っていながら、彼の隣を離れられないのだから……














独特のテンポと甘さを孕んで、切なく響くのは鎮魂の調べ。

そのピアノが、俺の為だけに奏でられる、その間だけが、何故か満ち足りた気持ちになるのだ。





不快感と、充足感と、そして敗北感。




彼の奏でる音が好き。
彼の紡ぐ曲が好き。


確かにとても好きなのに、同時に酷く憎らしく、同時に酷く焦がれ、同時に羨望さえもが渦を巻くのだ。













これは、君に対する友情?
それとも、俺の持っていないモノを持っている事への嫉妬?










それとも……















君がピアノを弾き、俺がヴァイオリンを弾く。

それが、お互いにとって、最上の時間である事を何も言わずに理解しているから。














君は、太陽のように天真爛漫に、自分の感情のまま、曲を奏でる。

俺はただ感情も無く、曲を楽譜から再現するだけの機械人形。





情熱と冷酷の二重奏(デュエット)。





何時までこうしていられると、思っていた。












あの時までは……















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