その他の駄文

□愛と信仰
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「まるで盲信だね」と、水月は言った。





重吾にとって世界は狭い。

しかし、それは仕方の無い事であった。
所詮、世界などと言うモノは、その人間が見聞きし、認識した範囲に過ぎ無い。
人間の頭に詰め込める知識の量など、たかが知れているのだ。

その中でも、重吾の世界は殊更狭い。
何せ、他と関わる事をしなかったのだから。
自らの内の力に怯え、逃げ、閉じ籠り、隔絶する事で保っていた。
故に、彼の知り得る世界は狭いのだ。

今までの重吾であったなら、それに何ら不満は無かったであろう。
誰かを傷付ける位なら、孤独である方が良い。
そう考えるのが重吾なのである。

だが、今は違う。
君麻呂でさえ完全に救えなかった重吾をサスケは連れ出したのだ。
自らの牢獄から。


故に、重吾のその思いは、忠節は、親鳥を追う雛にも似ている。
言うなれば、刷り込み、なのだ。
それは親を敬愛する様に、神を信仰する様に。


だから、そう、重吾の語る愛は、異質なのだ。
と言うよりも、愛ですら無いのかもしれない。
もっと別の感情の様に、水月には思えた。


「それこそ、今更、だな……」


水月のその言葉にも、重吾はクスと笑っていた。
普段の朗らかな笑みとは、全く異なる影のある笑顔。
コイツは、自分の感情の意味を理解した上で、あの関係を続けているのかと思うと、水月はゲッソリした。


水月は、重吾とサスケに肉体関係がある事を知っている。
元々、そういった行為に偏見は無いから、最初のうちは、別段何も思わなかった。
しかし、時が経つにつれ、違和感を感じる様になったのだ。

それが、重吾の持つ雰囲気によるものだと気付いたのは、一体いつだったか。
世間知らずな重吾は、最初から、その類いの、つまり性的な欲求の匂いがしなかった。
それは閉じ籠っていたせいだと思っていたのだ。

だが、重吾がサスケと身体を重ねる様になっても、それが変わらなかった。
相も変わらず、重吾からは情欲の類いが感じられないまま。
あれは綺麗過ぎる程に綺麗なままだ。




水月はふと、いつか聞いた宗教の話を思い出した。
神の力や啓示を得る為に、神と性行を行う事を教義とする流派があるらしい。
重吾の忠義は、まさにそれだ。
重吾は、自分を救い出したサスケと言う神に自身を捧げているのだ。

水月は頭が痛くなった。
ああ、なんとも報われない。
二人とも、だ。
サスケが重吾のそれに気付いていないのなら、それ程愚かな事は無いし、気付いていたとしても、それを感受している時点でイカれてる。

この関係には、どこにも救いなんて無いではないか。


「君達、頭、オカシイんじゃ無い?」

「それも、今更だと思わないか?」


それでも良い、と重吾は言う。
ゆうるり、と口元を笑みで歪ませて。

水月は背筋に寒気が走るのを感じた。

重吾は救いなど、端から求めてはいなかったのだ。
そもそも、彼等にとって、今は最上であるのだろうから。


「まぁ、好きにしなよ。
僕には関係無いしね」

水月はうんざりと言った様子で肩を竦めた。
彼等に何を言っても変わらない、と痛感したのだ。
自ら望んで、泥沼に居る人間になど、何を言っても無駄なのだ。


重吾は背を向けて歩き出した水月をゆったりと追いながら、目を細めて笑った。
暗い幸福の影が差す、妖しげな笑顔を。




END.
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