その他の駄文

□呼吸困難
1ページ/2ページ


息が、出来ない。
辛い、辛い、辛い……!
苦しい、息、出来ないっ!

気道を…気道を確保しなくては!


「はっ、はっ、んは!」


ガリッ、ガリ、グチュ、グチュッ


閉塞感の有る気道。
胸の辺りに爪を立て掻き毟る。
その動きの果ては、皮膚を破り、肉を抉った。
血など、肉片など、気にする余裕すら無い。

酸素、酸素が必要なんだ!


この胸を二つに割って、気管を割ってさらけ出せば、きっと呼吸が出来る。
そんな気がして、ひたすらに自らを傷付けていく。


「あっ、っつ、苦、し……っ」


痛みも構っていられない!
だって呼吸が出来ないんだから!


カツカツと指が硬い骨に触れる。
胸を抉る指は、いつの間にか胸骨にまで達していた。

ああ、胸骨が邪魔臭い。
この骨さえも取り外し、気管を裂きたいのだ!
息が出来ないのだから。
早く早く……!

両手を自分の血で染めて、ひたすらに胸を抉っていく。



「やめろ、重吾!」

突然腕を掴まれた。
其処にはサスケが、眉間に皺を寄せて立っていた。

「っは、はぁっ……ん、息、出来な…」

息も絶え絶えに訴える。
サスケは眉間に皺を寄せたまま俺に近付き、ひざまづいて俺の腕を引いた。


チュ、クチュ……


気が付けば、口を塞がれていた。
彼の唇で。

酷い……!
息が出来ないと言っているじゃ無いか!
それなのに、何故口を塞ぐんだ?

キスは嬉しいけれど、今はそれどころでは無い!


「っ…んぅ」

「ん、ぅ……」


サスケの舌が器用に口の中へ滑り込む。
それは、俺の舌を押さえ付け、口を無理矢理開かせた。
身体はサスケに抱き止められていて、俺の血がサスケの服を汚していた。


フゥ  フゥ

口を塞いだまま、サスケが俺に空気を送る。
それは宛ら人工呼吸。

でも、何故だろう?
苦しく、無い……



「……っは!」

はぁ、はぁっ……

呼吸困難の名残は有るけれど、最初の息苦しさはもう存在しなかった。
俺は呆然として、目の前のサスケを凝視する。

「過呼吸だ。
二酸化炭素を与えれば治る。
精神状態が不安定だとなりやすい」

サスケは俺から身体を離すと、呟くようにそう言った。
つまり、あのキスは治療目的だと。

「す…済まない、サスケ。
迷惑を…掛けたな」

まだ少し荒い息で返す。
でも確かに呼吸は遥かに楽で……

心臓は早鐘の様に鳴っているけれど……

「また起こる様なら俺を呼べ。
そんな事になる前に」

サスケの視線は俺の胸を見ていた。
自分で抉った胸は血塗れで、白い胸骨がチラリと覗いている。
なんとも惨たらしい情景だ。

「え、ああ……
でも、直ぐに治る」

そう、既に傷口は治り始めている。
全ては呪印の力だ。
このせいで、死ぬことも叶わなかった。
だから別に、これくらいの傷なんて、俺にはどうでも良いことで。


「そういう問題じゃ無い」

そう言いながら、サスケが俺を抱き締めた。
上から覆い被さるみたいに。

「サスケ…服、汚れる」

「もう汚れてる」

照れ隠しに言った言葉にも反論され、俺はされるがままに抱き締められた。
体格は遥かに俺が勝るのに、サスケに包まれている、そんな気がする。
呪印のせいで、人の体温を感じる機会の無かった俺に、その温もりは酷く優しく感じられた。


「本当に、有難う……」

心からの感謝を彼に伝える。
でも、胸が苦しかった。

サスケは治療の為に俺にキスした。
その行為に他意は無くて……

でも、こんな風に抱き締められたら勘違いしてしまいそうになる。
サスケに好意を寄せられているのだと。


これは、不毛な片想いだ。
伝える事さえ許されない、不純な思いだ。
だからもう、これ以上俺を優しく抱き締めないで欲しい。
これ以上、俺がサスケを好きにならない様に。



ああ、サスケにキスして貰えるなら、こんな風に抱き締めて貰えるなら……
過呼吸も良いカモ知れない。
なんて……

不純な思いを抱きながら、俺はサスケの腕に抱かれ続けた。





END.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ