その他の駄文

□幸福の在処 side S
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麗らかな夕日の射し込む森の中の原っぱ。
今日は早めに野宿をする事になって、小隊は歩を止めていた。
今はまだ夕食にも早いと言う理由で自由時間になる。
俺は少し気になる事が有り、重吾を探していた。

そして、見つけたのは小動物に囲まれて、一身に光を受ける重吾。
其処は何故か、他のモノが介在してはいけない様な雰囲気が有った。
それ故に、無性に駆られたのだ。
罪悪感に……

だからこそ、俺は聞かなくてはならない。

だがその完成された空間を壊してしまうのは惜しい気もした。
重吾が余りに幸せそうだから。


「……重吾」

意を決して声をかけた。
散る様に動物達が逃げて行く。

「どうした?」

それを別段気にした様子も無く、重吾はゆったりとした動作でこちらを振り返った。
普段は無表情な重吾の微笑が、俺の決意を揺るがせる。

「いや、大した事じゃ無いんだが……」

自然、語尾が弱くなっていく。
らしく無いのは解っているがな。

「本当に良かったのか……?」

一息吸い込んでから、漸く言葉を吐き出す。
それは、彼を仲間にしてから直ぐに思い始めた疑問。

しかし、重吾はその体格には似合わないが、彼の雰囲気に相応しい仕草で小首を傾げて俺を見た。
それがどうしようもなく愛らしく見えて、意図せず頬が染まる。


ふと過った思いを振り払う様に、俺は言葉を紡いだ。

「お前は……俺に着いて来て本当に良かったのか?」

血に塗れると解りきった道を選ぶ事が、本当にお前の為になったのか、と……


「俺は自分の意思でお前に着いてきた。
それを最初に確かめたのはサスケだろう?」

確かめたのは事実だが、それは強引なもので、半ば強制の様だった。
選択肢を与えていないに等しい。

俺は後悔の様に顔を伏せた。

「でも、何故……?」

重吾は不思議そうに尋ね返してきた。
俺の疑問の所以すら解らないと言う様に。


「お前は戦いを好まない。
だから……俺がお前に道を踏み外させたんじゃないか、と」


重吾は自然を愛で、動物を愛で、命を奪う事よりも育む事の方が似合う。
そう思うと、その微笑みの向けられるべきモノは、俺では無いと感じてしまうのだ。

悶々と考える程に、思考は悪い方に悪い方に堕ちていく。


「それは無用な心配だよ、サスケ……」

伏せた俺の上の方で、重吾の微笑む気配がした。
その笑顔を見たいと切に願うけれど、見てはいけない気もした。


「俺はサスケと、皆と一緒に居るのが楽しい。
それに、サスケが連れ出してくれなくちゃ、俺はずっとあの牢屋の中で怯えてただろうから……」

俺の顔を覗き込んで、まるで包む様に重吾が言った。
僅かに合った視線を何故か保つ事が出来ず直ぐに伏せる。

それでも、重吾は続けた。

「有り難う、サスケ……
俺を救ってくれて、嬉しかった」

感謝の言葉なんて、言われるとは思わなかった。
俺は心底救われた気持になっていた。

そして俺の伏せた視界に重吾の手が映り、俺のそれをそっと握り締めた。

「今こうやって外に出て、自然や動物達と戯れる事が出来るのも、サスケが俺の衝動を抑えてくれるからだ。
俺は、檻無しじゃ、サスケ無しじゃまともに生きる事さえ出来ないんだ、だから……」


俺を生かせてくれて有り難う……


吐息の様な儚い声で、でも確かに重吾の言った言葉は、酷く俺の心に沁みた。

「……重吾」

漸く顔を上げて重吾を見る。
そこに有った重吾の綺麗な笑顔に、思わず困った様に微笑んだ。
笑ったのなんて、何時振りだろう。


「そろそろ戻ろう。
水月と香燐が心配する」


握られていた手を離し、重吾が集合場所を見遣った。
離れていくその体温を何故か名残惜しいと思ってしまう。
それを誤魔化す様に、あぁと小さく溢して歩き出す。
後ろを重吾が着いて来ている事を嬉しく思いながら。













そもそも、何故これ程重吾ばかり気にかかるのか。
彼が俺を選んでくれた事を幸福だと思うのか、今の俺にはまだ解らない。
それでも俺は、何時かソコに行き着ける気がした。

兎に角今は、長くは無いであろうこの平穏の中で、この淡い幸せを噛みしめようと思う。














(それが恋だと気付くのと、平穏が壊れるのと、どちらが早いのだろうか)
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