その他の駄文

□幸福の在処 side J
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麗らかな夕日の射し込む森の中の原っぱ。
今日は早めに野宿をする事になって、小隊は歩を止めていた。
今はまだ夕食にも早いと言う理由で自由時間になる。
俺は森を散歩しながら食べられる木の実でも探そうと歩いていて此処を見つけた。

若草がサワサワと優しい音で耳を癒してくれる。
暫くそのまま立ち尽くしていれば、自然と動物達が集まってきた。



「……重吾」

後ろから俺を呼ぶ無機質な声がした。
おかげで俺の回りに集まった小動物は、散り散りに逃げてしまう。
それを別段気にも止めずに、彼の方へ顔を向けた。


「どうした?」

「いや、大した事じゃ無いんだが……」

珍しくサスケがどもった。
俺はその様子にゆるりと目を細めて微笑んだ。


「本当に良かったのか……?」

何時に無く細い声音が下から聞こえた。
俺はその意味を測りかねて小首を傾げた。
何故かサスケの頬に朱が差した気がする。


「お前は……俺に着いて来て本当に良かったのか?」


真摯な瞳と目が合う。
美しい黒耀の瞳が揺れている様に見えた。



「俺は自分の意思でお前に着いてきた。
それを最初に確かめたのはサスケだろう?」

やり方は強引でも、選択権は確かに与えてくれた。
だから俺はサスケを選んで、サスケに着いて来たんだ。
緩やかに口元を綻ばせて見せる。
表情こそ変えないが、サスケのその様子は不安気で、嫌が応でも気になってしまった。

「でも、何故……?」

視線を落として動こうとしないサスケに、柔らかく問い掛ける。


「お前は戦いを好まない。
だから……俺がお前に道を踏み外させたんじゃないか、と」


逸らされた視線が何時に無く寂しそうで、でもそうやって気にかけてくれる事が嬉しくて、俺は思わず笑みを溢した。


「それは無用な心配だよ、サスケ……」

サスケに近付いて顔を覗き込んだ。
逸らされた視線がこちらへ戻って来て、また伏せられる。
ちゃんと俺の顔をみて欲しいんだけどな……

「俺はサスケと、皆と一緒に居るのが楽しい。
それに、サスケが連れ出してくれなくちゃ、俺はずっとあの牢屋の中で怯えてただろうから……」


まずは言葉にしよう。
普段は余り喋らない性質だけど、本当に伝えたい事は言葉にしなきゃ伝わらない。
それに、まだ俺はサスケに言えて無い。


「有り難う、サスケ……
俺を救ってくれて、嬉しかった」

感謝しきれない、言葉じゃ足りない、けれど……
俺に出来るうる限りを伝えたい。

俺はサスケの手を取った。
足りない分はこうやって伝えよう。
体温と共に伝わる事を願って。


「今こうやって外に出て、自然や動物達と戯れる事が出来るのも、サスケが俺の衝動を抑えてくれるからだ。
俺は、檻無しじゃ、サスケ無しじゃまともに生きる事さえ出来ないんだ、だから……」


俺を生かせてくれて有り難う……


「……重吾」

漸くサスケは俺を見た。
何だか困った様な笑顔を浮かべて。

でも、それは俺が見た初めての笑顔だった。

「そろそろ戻ろう。
水月と香燐が心配する」

そっと、握っていた手を離して顔を集合場所の方に向けた。
サスケはあぁ、と小さく言って歩き出す。
俺はサスケの背を何故か幸せな気分で追っていた。











俺の新しい檻になってくれた人。
でも何故かそれ以上に、檻がサスケであった事を嬉しく思う。

今はまだ、それが何故かは解らないけれど、何時かは解るだろうか?


兎に角今は、短いであろうこの平穏の中、ただこの幸せを噛みしめていようと思う。















(それが恋だと気付くのと、平穏が壊れるのと、どちらが早いのだろうか)
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