脱色駄文

□血塗れ児戯
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「あのねぇ……何で僕が君の悪趣味に、一々付き合わされなきゃならない訳?」

ザエルアポロの不愉快そうな声が、ヤツの実験室に響いた。
折角の実験を中断させられたからだろう。


身体中痣だらけで、殆ど血を失った蒼白いテスラを抱えて、毎晩の様に俺は、コイツの部屋を訪ねているのだ。
その度にザエルアポロは、鬱陶しく繰り言を言ったが、結局は呆れた様な溜め息だけ残してテスラを治した。

「全く、君のおかげで実験が進まないよ!」

嫌味を吐きながらも、奥の部屋からテスラ専用輸血パック(余りに何度も俺がテスラを抱えて来るから、本人の血を培養して大量に作り置きしているらしい)を持って来る。


「君さぁ…いい加減素直になったらどうなの?」

テスラに輸血用の針を挿し、舌やら首やらの傷を治しながら、ザエルアポロが糾弾してきた。

「言える訳ねぇだろうが。
コイツをこんなにしたのは俺なんだぞ」


乱雑に髪を掻き乱し、溜め息を吐く。

ザエルアポロの言ってる事が正しいのは解ってる。
だが、俺はそんな事は出来ねぇ。

否、出来ねぇって言うのは正しくねぇ。

ただ、俺にその覚悟がねぇだけだ。


「君、意外に臆病だね……」

鼻で笑う様にザエルアポロが言った。

「テメェ、黙って聞いてりゃいい気になりやがって!!」

ヤツの首に手を宛がった。
次、俺の癪に障る様な事を言えば、一発で喉を掻き切れる。

「僕は本当の事を言っただけだよ。
その程度の事でキレないでくれるかい?
大体、君はまどろっこしいよ。
本当はこんな事をする必要なんて無いのにさ」


そう、掻き切れる筈だった。
だが、出来なかった。

「君は一体、何時までこんな事を続けるつもりだい?
気持ちを押し付けるだけの子供染みたセックスして、苦しめ合うだけなんて阿呆らしい」

心底呆れた風な言い様。
全て解ってる風な言い種。
首元には未だに俺の指先が有るというのに、コイツは動じねぇ。

「チッ……
んな事は解ってんだよ」


解ってて止められねぇんだ。
言えねぇんだ。
聞けねぇんだ。


「君が何時も彼の舌を噛み千切るのは、怖いからなんだろう?
最悪の言葉を聞くのが……」

「そうだよ!悪ぃか!?」

乱暴にザエルアポロの首に当てた手を振り払い、開き直って椅子にドカッと座り込んだ。
ヤツはそんな俺に一瞥だけくれて、肩を竦めた。


「本当、馬鹿だよね……君」

テスラの髪を梳きながら、ザエルアポロが溢す。
その目は何故か物悲しい。

「チッ、テメェに何が解るってんだよ」

「解るよ、痛いくらいね……
でも、僕はもう後悔しか出来ないから」

「………」

それがどういう意味か、解って口を閉じた。

「まぁ、君はまだ浮上出来るんだから、足掻くんだね」

チラリとコチラに視線だけ寄越して、ザエルアポロは力なく笑った。
その先に映っているのは、もう帰らないヤツの様な気がした。


「テスラ君の傷、一応全部治したから、もう戻って構わないよ」

「チッ……」


怪我は治っても、意識を失ったままのテスラを抱えながら、俺は乱暴にドアを蹴り開け研究室を出た。














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