脱色駄文
□鳴かぬ蛍が身を焦がす
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「っ…………」
強かぶつけた鼻の頭を擦りながら、僕はノイトラ様が出て行った扉を見詰めた。
ゆっくりと立ち上がり、ふぅと息を溢す。
解っていない訳じゃ無い。
ノイトラ様が怒っている理由は十二分に理解している。
ただ、理解した上で『言ってはいけない事』を弁えているだけだ。
言ってはいけない……
僕の思いなど。
ただの横恋慕に過ぎないのだから。
だから、僕は本心を言ってはいけない。
僕には、限りなく本心に近い言葉を限りなく嘘の様に、ただ機械的に騙るのが限界なのです。
解って下さい、とは言えないけれど、僕にはそれしか出来ないのです。
『鳴かぬ蛍が身を焦がす』
鳴き声を持たぬ蛍が自ら光を放ち、愛を語るかの様に。
口煩く鳴き喚き、愛を望むのでは無く。
ひっそりと、ただ蛍の光の如く。
その身を焦がす。
『僕は貴方を……』
その言葉の先は声にされる事無く、心の中で燻り続ける。
儚い、蛍火の様に――
END