脱色駄文

□冬の定番
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ぬくぬく。
そう、その表現が一番正しい、今この状況。


外はきっと銀世界だ。
昨日の夜から降り始めた雪は、この無駄に広い屋敷をも白銀に染め上げただろうから。

さっきから、何故、予測で話をするかと言えば、単に私が外の景色を見ていないからに他ならない。

今日、具象化してまず目に入ったのが、それだったから。
私は余所見をする事もなく、そこへと足を運ぶ他無かったのだ。

そう、それは冬の定番にして、魅惑の暖房器具――


『炬燵』





「村正、蜜柑食べるか?」

ザッと襖の開く音がして、響河が部屋へと入って来た。
当たり前の様に具象化し、炬燵で暖を取っている私に、響河も当たり前と言った具合に話掛けて来る。
その手には蜜柑の積まれた籠が有った。

「ああ」

やはり、炬燵に蜜柑は日本の冬の風物詩。
炬燵に入っていれば、蜜柑が恋しくなるものだ。
私はコクリと頷いて、蜜柑を一つ響河から受け取った、のだが……


「その爪では皮が剥けないだろ、貸してみろ」

長い爪が邪魔をして、蜜柑を剥けない私に、響河が苦笑して手を貸してくれる。

「済まない、響河」

「構わないさ」

嬉々として蜜柑を剥く響河。
何時も私を振るう手で、器用に蜜柑の皮が剥かれていく。
何だか複雑な気持ちだ。


「ほら、口開けて」

「こ、響河!?」

蜜柑を剥き終えた響河が、その一つ丁寧に摘まみを差し出す。
満面の笑みで、さも当然の如く。
主人の手ずから物を食べるなど、本来有ってはならぬ事なのだが……


「ほら」

再度、突き付ける様に蜜柑を目の前に差し出されれば、断る事も出来ず、羞恥心を抑え込みながら素直に口を開く。


「あ、ん……」

ムグムグ。
蜜柑を咀嚼すれば、程好い酸味と甘味が口の中に広がる。
やはり炬燵には蜜柑だ、と熟思いながら響河を見た。
実に楽しそうな笑顔だ。

「旨いか?」

「んっ、ああ……美味しい」

コクリと蜜柑を燕下して答える。
恐らく、私の表情も緩んでいるだろう。


「ほら、もう一個」

また一つを摘まみ上げて、私の口元に差し出す。
食べねば響河が拗ねるだろうかと考え、また口を開く。

まぁ、たまにはこんなのも悪くない。
二つ目の蜜柑を頬張りながら、そんな事を思った。




END.
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