宝物

□教育
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俺達が武州を出るほんの数ヶ月前…



俺は最近「煙草」というものに興味を持ち始めた。
こんな田舎ではあまり手に入れられない代物だが、たまたま俺は手に入れた。


まだ年齢制限などというゴチャゴチャしたルールは知らないので、俺は流れで手に入れたそれを週に一、二本吸っていた。
この頃総悟の悪戯が酷くなってきていて、ストレスが溜まりに溜まっていたのだが、こいつは気持ち良くそいつを除いてくれる。俺は気に入った。近藤さんにはやめろと言われたのだが、一回吸ったらなかなか止められない。まあ、それでも自重して週一にしているわけだ。
俺が煙草を吸い始めたら、皆興味を示した。近藤さんは執拗にやめろというようになったが、ミツバは顔を染めた(のを俺はたまたま見た)。俺はイイ気分だった。総悟はまだなんだか分かっていないようだったが、流石に餓鬼には影響を与えると思い、絶対一人で触るなと強く言っておいた(聞くかどうかは分からないが)。






俺は近藤さんから借りている、事実上の俺の部屋で一人、のんびり煙草を吸っていた。
ふー、と煙を口から吐き出して昇るそれを目で追う。
ハア…。昨日も総悟に池に落とされた。ため息が止まらない。だというのに…





「許してやれよトシ。総悟はただお前ェにかまって欲しいだけなんだよ。餓鬼相手にんなカリカリすんなや」

「ごめんなさい、十四郎さん…。そーちゃん、ダメよ、悪戯しちゃ」











…オイ、誰かもっと怒れよ。
甘すぎんだよ、お前ェらよォ!!
近藤さんは許せっつーし、ミツバは甘いし。総悟がどんなに可愛いからって、甘やかし過ぎるのは良くない。
だから俺は奴がなんか悪戯すると叱ろうと思うのだが、近藤さんや(さり気なく)ミツバが止めるので、どうも毎回失敗している。





「トシ」
「あ??」
振り向けば近藤さんが顔をしかめて俺の部屋を覗いていた。
「煙草やめろっつってんだろ。ったくよ…マヨネーズの次はニコチンか」
「マヨネーズを舐めるなよ近藤さん…。あれはな、酸味と―――」
「マヨネーズはどうでもイイんだがな、お前にちょっとお使いを頼みたい」
「…お使い??」
「向こうの道場の斉藤さんちに…いや、斎藤さんかな。…齊藤さんだった気がしたな…」
「もうどうでもイイだろ。で??齋藤さんのとこに何しなきゃいけねえんだ??」
「おお、その齋藤さんだった気がするようなしないようなするような!!…とにかく、この書類を渡してくれ」
近藤さんはそう言って、俺に茶色の小封筒を差し出した。
「これな、近隣の道場の門下生の人数を示したもんなんだって。隣りの山中さんから回ってきた」
「ああ」
俺は頷いた。廃刀令のせいで、すっかり道場から門下生の人数が減ったのだ。道場主は少なからず焦っている。そのせいでこんな書類が回ってくるのだ。
俺は素直に封筒を受け取った。
「分かった。行ってくるよ」
近藤さんはニコニコと俺を見た。この人の笑顔は素晴らしいと思う。
「ありがとうな、トシ。俺はちょっと手が離せねえんだ。すまねえな。俺が行きゃイイんだが…」
「ああ、大丈夫大丈夫。チャチャッと行って来るさ」


俺は煙草を買ったばかりの灰皿に押しつけ立ち上がって、斉藤さんだか斎藤さんだか分からねえが、そいつんとこに向かった。




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行った行った土方さんがお使いに。
俺は物陰に隠れていたが出て来て土方コノヤローの背中を見送る。それが完全に視界から消え、近藤さんも違う所に行ったので、俺はコッソリ土方の野郎の部屋に入り込む。
今日は午前中で稽古は終わった。近藤さんに何か用があるらしいからだ。で、なんだかよく分からないが土方の奴も今消えた。姉上は今日は病院に行くから、道場で大人しくしろと言われているのでこうして此所で遊んでいる。俺は一人だ。何をしようと言ってくる人はいない。



さて…何をしてやろうかな。土方さんを苛めんのは楽しい。また悪戯してやろう。昨日は池に向かって落としたら、簡単に落ちた。大袈裟に悲鳴をあげながら、水飛沫を盛大に飛ばして水の中に落ちるのはなかなかの見物だった。その前は土方の着物の中に毛虫をいれてやったり…
思い出すだけで笑ってしまう。




その時、俺の目に灰皿と煙草、煙草の箱が飛び込んできた。

           
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