ふと泣きたい衝動に刈られた。僕の目の前には真っ白な世界が広がってて他には何も無かった。今一番会いたい人の名前を呼んでみる。その人は僕よりも背が高くって三匹のモンスターを連れてていっつもお気に入りの赤い帽子を被ってて濃厚な茶色に染まった吸い込まれそうな瞳を持っていて、素敵だった。僕は怖がりだけど欲張りだからどうしてもその人の全てが欲しかったんだ。僕、僕。全てが分かったときには、もう僕の回りを囲む白は無くなっていた。代わりに見えたのは、ちょっと傷んだブラウンの毛髪。

(ひっぱってやる)
(いたいっておきて)
(ひっぱってやる)

 どうやったら目の前の彼が起きて僕に微笑み掛けてくれるのだろう。帽子の鍔をつかんでひっぺがしてやった。でもそこから出てきたのはブラウン以外の何者でもなくて、ぼくはそんな淡い茶色に喪失感を感じるのだ。

(今一番聞きたいことがあります、マザー。毛って神経通ってましたか、このちょっと傷んだ淡いブラウンの毛をちょんぎってやれば目の前の彼はいたいっておきてくれるんですか)

(ひとりにしないでよ)

 ちょいちょい、っと髪を引っ張ってやった、起きない。ちょきんちょきん、っと髪を切ってやった、起きない。たんたん、背中を叩いてやった、起きない。
お願い起きて。僕は君がいないと駄目なんだ、寂しくて死んじゃうよ死にたいよ。君のいない世界なんて僕の頭の中では有り得ないんだよ。だから早く起きて風までもが嫉妬する元気な、太陽までもが嫉妬する明るい、笑顔を向けて。

(僕のぽっけからころん、ビー玉ひとつ落っこちた)

 ビー玉を君に向けて透かして君を見る。ぐにゃりと歪んだ世界の中で君は倒れていた。僕の心がけ歪んでいるから君は歪んでいるの?ううん、僕が歪んでいるの?
声にも出さずにビー玉を握り締めた、僕はどうしたら良いのか分からない。


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