※少しあれな話
※偏見の意味を込めてはおりません












 マリク君はたしか、それを笑いながら見せていた。だけど僕はそれを見て笑うことなど出来なかった。見せられた背中の刻印はなんと表すのだろう、黒く艶めいたその印からは見る者を圧倒させる様な、否、少なくとも魅せられる様なものがたくさん含まれていた。僕は泣きそうになった。マリク君は、何で君が泣きそうになるの、と悲しそうに笑った。

「儀式、だよ」
「でも、君がそんなものを負う義務なんて無かったはずだよ、おかしい、そんなの」
「仕方無いんだ、僕はマリク、支配者だから」
「王の意味では無くて支配者を取るの」
「…うん、」

 僕の頭を優しく撫でながらマリク君はうっすらと笑った。本当はマリク君が泣きたいはずなのに、こんなのきっと、凄くおかしいことだと思う。

 何処かで聞いた話、イスラム教国やユダヤ教国の間で行われている儀式を聞いたことがある。女性は8歳の時に性器を縫い付けられ、男性は11歳の時に性器の先を切られるという儀式だ。僕は日本人だからそんなこと全く関係無くて、ただ嫌だなぁとしか考えて無かったけど今いざ考えると、あぁ目の前の彼はイスラム教の国だったんだなぁ、なんて。彼は何でそんなに全ての痛みを覆っているのだろう、なのに何で今こうして綺麗に笑っていられるのだろう。幼い頃に、僕が小学校に通っていた頃に受けた精神の傷に性器の傷に背中の傷。僕が今してあげられることって、何なんだろうと考えて分かることがひとつだけあった。なんにも、出来ない。

「…痛いよね、凄く」
「そんなことないよ」
「もう慣れたなんて言わないで、僕は」
「君も、それ以上言うもんじゃ無いよ」

 自分の性器の先をナイフで切ったら、自分の背中をナイフで彫ったら。考えるだけで手の力が抜けていく感覚に襲われるし、胸がきゅうきゅう痛くなる。でも彼からしたらこんな胸の痛み、痛みとは言わないのだろう。分かっている、そんなこと。

 ただ、目の前で笑う彼が行為を出来ないのだとしたら、僕がその童貞で無く処女を奪う。それだけの事実で十分、そして何より割礼という儀式に感謝しているみっともない自分がいることに気付いた。



(081020.割礼せよ/獏マリ)


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