捨てられました。必要とされませんでした。何度も何度も死にたいと、心から思いました。痛みも憎しみも苦しみも、もううんざりだと感じました。空は影を落とし、わたくしめの大嫌いな水を寒い空気の中に落として来ます。

 いつもの様にわたくしめのだけの城に籠もり、水を避けていたときの話で御座います。いつもは前を子供たちがはしゃぎ遊び、煩い思いをしながらも転寝を楽しんでいるのですが、空が泣くこの日は誰もおらず、ただひっそりとした中に水と地面が衝突する音しか耳の中に入って来ません。それはそれで退屈だと感じるわたくしめは、遠い空をじっと眺めていました。その時です、彼と出会ったのは。

「ずいぶんと濡れているじゃないか。ほら、寒いだろ?こっちにおいで」

 黒いズボンに黒い学ラン、空が見える透明な傘をさした彼は其処にいました。水滴が光る白と黒のスポーツバッグが揺れます。彼はそっと、わたくしめに手を差し出しました。

 その瞬間、見えた彼のすらりと伸びた美しい指は、四本しか無かったのです。

(081231.零)


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