彼が彼を取り戻したときにはもう彼は亡かった。彼と彼は張り合う仲であり、仲間であり、まるで何処か未知で出来た胎盤から通じあって来たかのような、つまりは兄弟のような仲であったのだ。彼は彼を敵対視し、仲間とし、認め、愛していた。彼も彼を敵対視し、仲間とし、認め、愛していた。愛し合っていた彼と彼は何か引きちぎられるように離れていってしまったのである。嗚呼何という惨劇。彼はもう彼と会うことは出来ない。敵対視し、仲間とし、認め、愛することも出来ないのである。雨がしとしとと降る中。彼が彼を取り戻したときにはもう彼は亡かった。

「…サスケ」

 小さい声で自分の腕の中の青白い肌に語り掛ける。その肌は元から白い色をしていたが今ではその白さを上回り苛立ちを覚えるほどの何もない白さを帯びていた。彼は彼に語り掛ける。彼は口が動くが彼は口が動かない。耳も聞こえなければ漆黒の瞳を動かして彼を見詰めることも出来ない。彼は亡いのだ。亡いのである。しかし彼たちはその現状を受け入れようとはしなかった。なあサスケ、と雨のせいなのか他の原因があるのか、冷たくなった頬をぺちぺちと叩きながら彼は呼び掛ける。彼は彼が動くと信じているのだ。

(…すげえ、全く動かねぇってば…)

 動かない彼の長い濡れた睫毛にそっと滴が落ちる。元から濡れていたそれを伝わって眼球を包むようにしてなる瞼に滴が通った。

(ああ、生きてるみたいに溢れ落ちて)

 目から頬を伝って溢れ落ちた滴は彼のものかそれとも彼のものか。嗚呼助けてくださいと天に祈っても天は彼を動かすことをせず、ただただ水滴を落とすだけであった。そんな天を恨むことも忘れず彼はもういなくなってしまった彼を優しく包み込むように抱き締めた。その衝撃で落ちた滴は彼のものかそれとも彼のものか。彼ではなく彼でもなく、それは誰のものでもないのである。彼と彼は引き裂かれてしまった。最後の滴が、落ちた。


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