【吸血鬼と牧師】


かすかな喘鳴(ぜいめい)が静かな夜を震わす。
教区本部からハンター出動の知らせを受けていたカカシは、音の出所である教会の脇にある納屋に侵入者の痕跡を見付けた。
近付いているはずなのに次第に消えゆく呼吸音は、放っておけばその生を閉じるだろう。
知らせを受けた牧師として、ハンターの追っている標的だとしたら、カカシはその絶命を見届け、報告する義務がある。
納屋の扉にべとりと付いた血痕を避け、蝶番の軋みを立てながら、懐の聖水を取り出す。
ランタンの灯りで狭い納屋を照らすと、積み上がっている薪の奥に、投げ出された女の細い脚が見えた。

今にも消え入りそうな呼吸に、聖水の入った瓶の蓋を開けておく。
白い脚を辿ると、どす黒い血溜まりだったもの。
液体な筈のそれは、滑り落ちる灰によって泥と化し、泥寧が腰の下に広がる。
灰の出所は、大きく穴の開いた腹部である。
おそらく銀の弾丸を撃ち込まれ、そこから浸蝕していったのだろう。
傷を回復できず、浸蝕を許していることから、彼女が追われる魔物であることを証明していた。

「吸血鬼って、ホントに灰になるんだねぇ。――え?」

動けないことを確心して暢気な感想を漏らした時、顔を見たカカシは仰天した。
近所に住む、勉強熱心で愛想の良い、周囲の評判も良い少女だったからだ。
頭の回転の良さは、カカシも舌を巻く程だったと記憶している。

「サクラ‥‥」

「――こんばんは、カカシ、せんせー‥‥」

喘鳴と共に漏れ聞こえる微かな挨拶。
命の燈は尽きかけて見える。

「ねえ先生‥‥。私、血を吸ったことなんて、なかったのよ‥‥」

ばけものって、そんなにダメかしら、と呟く彼女の瞼は閉じられて伺えない。
眉根を寄せる少女が哀しくて、傍らにしゃがんで頭を撫でる。

「――先に、神の御元で待ってなさい。そのうち会いに‥‥ッ」

もう些細も動けないだろうと思っていた腕が伸び、カカシの襟元を掴んで裂く。
冷たい口唇がいつ近付いたかも、カカシは見えなかった。




朝日の眩しさに目を開けると、見慣れた天井が視界を覆う。
カカシは自分のベッドで寝ていた。
どろりと重たい身体に、纏わり付く服は夕べのままだった。
その、襟元が破けてる。

ぐらぐらする頭を抱えて起き上がると、涼やかな声。

「おはようございまぁす、カカシ先生」

聞き覚えがあるものの、ありえない声の持ち主に、夕べの記憶が一気にフラッシュバックする。

――彼女は、絶命したのでは‥‥?

「牧師様ってずるいわ。普通は血を吸われたら下僕になる筈なのに、先生は神の僕(しもべ)だから、私がカカシ先生の僕になっちゃった」

目の前の彼女は、いつもと同じ様にくるくると良く表情が変わり、生き生きとしている。
とても昨夜ぐったりとして死にかけたには見えない。

「生と死の狭間で、本能が出ちゃったの。カカシ先生もダメよぅ、死にかけの化け物のテリトリーに入っちゃ」

「な、に‥‥?」

「ごめんなさい、カカシ先生。私、初めてだったから‥‥そんなに吸ってないけど、美味しかったです。ご馳走さまでした」

顔の前で両手を合わせ、こちらを見上げる彼女、サクラは――輝いて見えるほど、とても、可愛いらしかった。



『これから一月に一回で良いので、一口吸わせて下さいね』


先生の血じゃなきゃ私死んじゃうわ! と少女に泣き付かれれば憐れに思い、仕方なしに血を分け与えるその度、カカシは性欲を強制的に煽られ、14も年下の少女を組み敷くことになる。
幸いなるかな、カカシは産めよ増やせよの牧師であるので、大勢の子孫に見守られながら、その生涯を閉じるのであった。




配布元xxx-titles
パラレルな二人でお題┘
20120120


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