A la carte

□夜を、捕らえる。だって夏だもん
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「夜にそんな格好のままでいたら、攫われちゃうぞ」

夏の夜空を見上げながら潮騒を堪能していると、被っていた麦で編まれた帽子が風に飛ばされてしまった。
後で取りに行けば良いかと見送ると、飛ばされた帽子を手に、宵闇からカカシ先生が現れた。

「カカシ先生」

皆で遊びに来た夏の海。
潮騒に誘われて、夕飯のバーベキューを抜け出して一人、砂浜に来た。
普段山に囲まれた地にいるから、気持ちも昂揚してるんだろう。
昼間遊んだ水着にパーカーを羽織っただけで散歩へ出たけれど、バーベキューの火に火照った身体に夜風が心地良い。

「夜にそんなカッコしてちゃ冷えるよ。おいで。――それとも、オレが攫っちゃうよ?」

「攫って、くれるの?」

「いいの?」

心配してくれてることを冗談混じりに言うカカシ先生を、からかいたくなったのは夏ならではのマジックなのかしら?
乗っかってくれるカカシ先生に、乗っかり続けようと思った私は多分、今間違いなく機嫌が良いんだろう。
帽子を捕まえてくれたのが、カカシ先生だったから、というのもあるかもしれない。

今日という夜、同年代と騒ぐより、ゆっくり夜の海を楽しみたかったのが、一番。
二番はそう、間違いなく気まぐれ。

「攫ってよ、カカシ先生」

濡れた足に砂が張り付いて、くすぐったいやら気持ち悪いやら。
そんな、気持ちもくすぐったいままカカシ先生を見上げると、カカシ先生も悪戯っ子のように笑う。

「烈しいね、サクラ」

「夏だもの」

「火傷で終わらないよ?」

帽子を受け取るために伸ばした手を捕まれ、掌にキスをされる。
闇と月明かりのコントラストを従え、下から私を見上げるカカシ先生からの色気に、ゾクリと背筋が震える。
私の心の機微を読んだカカシ先生の、形良く薄い口唇が湾曲した。

―――ああ、今、その口唇を私のものにしたい。


「カカシ先生が焦がしてくれるならかまわないわ」


這い上がる欲求を満たす言葉がするりと口から滑り、口唇を端だけきゅっと上げると、素早く私の後頭部を捕らえたカカシ先生の口唇が、私を捕食した。



20100731


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