A la carte
□唇泥棒
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閲覧者がまばらにいる資料室で、ちょいちょい、と顔まで上げた手に呼ばれてその人の所まで行ってみる。
連立する本棚を避けて近くまで行けば、人差し指を下に指し、しゃがめのジェスチャー。
またこの男は訳のわからないことを‥‥と、いつも良い様にからかわれる・とわかっていても、上師の言うことに従わざるをえない己が忍の性が哀しくなる。
しっかり調教されてるとか、あんまり自覚したくないと思いつつも、そうじゃなきゃ生きて還れないし‥‥と、矛盾に理由をつけて素直に従ってる自分を肯定してしまうあたり、負け根性を植え付けられて洗脳されてるんじゃないかと思う。
溜め息に重い気分を乗せてしゃがむと、指示した本人もしゃがみ込む。
口布をずらす指に嫌な予感がビンビンする。
嫌な予感に従って反射的に腰が逃げる前に
ちゅ
と。
柔らかく口唇を啄む感触。
突然・とか、またか・とか、してやられた・とか、いい加減学習しようよ‥‥とか‥‥‥
ぐるぐる頭を駆け巡るけど、ほんわり微笑むカカシ先生に、結局なにも言えず、やっぱり溜め息に重たい気分を乗せたのだった。
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