OR

□初キッス
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シンが女の子になった。女の子。
俺が苦手で苦手で堪らない女の子。
言ってしまえば生理的に無理な女の子。

でも女の子のシンは違った。図書室でシンが女になって俺の上に落っこちてきた時、密着した体にヤバいと思った。ヤバいって言うのは生理的に無理とかそんなんじゃない。あれだ…理性が吹き飛んでしまいそうだったからだ。
俺は男のシンが好きだったのに女のシンも、…ヤバかった。柔らかかった、いい匂いがした、気持ちよかった。
女なんて、って思ってたのに。でもよく考えてみれば俺は可愛い見た目に隠された女の本性に恐怖を覚えていたわけで、シンは見た目も可愛ければ性格も可愛いのだ。なんら問題ない、万事OK

まぁ話は戻ってシンの中の元の染色体なんたらVは抜けて完全に女の子になってしまった訳だけど、実を言えば今はまだ手を握るので精一杯だ
いくら無問題で万事OKでシンと両想いだぜやった!な状況でも女の子には変わりない訳でいきなり先のステップに進むことは出来なくて。
でも男として、ほぼ今までの一生を共にし、同時に堪え続けてきたわけで限界も近いんだ。でも相手は女の子。でもシン。んん…

「アヤト?」
「うわぁあああ!!ち、ちか、近いっ」
「あ、悪い。声掛けても返事しねーから」

軽く笑いながら俺の顔を覗き込んで謝るコイツはスカートを穿いて大きく膨らんだ胸があって、背もちょっと縮んでてやっぱり紛うことなく女の子だ。ちょっと前まで男の幼なじみだったのに変な感じがする
帰ろうぜ、と差し出された手を握ると細い指に柔らかですべすべした感触、ああ、女の子…だなぁ…。そう思うとぞわりと一瞬背筋に嫌な感覚を覚えるが首を小さく振る。女と言えどシン相手になにを怖がることがある!俺は自分が悪寒を感じてしまったことを誤魔化すようにシンの手をぎゅっと握った。
ほら、大丈夫じゃないか
そんなことを思っているとふと視線を感じてシンの方を向くとばちりと目が合った。シンは慌てた様子で目を逸らしておかしいくらいに前を真っ直ぐ見ている

「どうしたんだ?シン」
「べっ、別に」

返事をする声は上擦っていて頬がうっすら赤らんでいる。本当にどうしたんだ…?俺はシンの視界に入るように覗き込むように顔を近付けた。するとシンはびくっとしてからぎゅっと目を瞑るんだ。
なに怖がってるみたいに……いや、違うな…待ってる、みたいな。なにを?きくのは野暮だ、この状態は、……キス、だ
俺は血が沸騰してるのかと思うくらいに体に熱を感じた。今、覗き込んでいる俺と目を閉じているシンの顔の距離は十数センチ。唇の距離もまた然り。
無意識に体が動く。少しずつ、少しずつ近付いていく、あとちょっと。

あと…

「あれー中村さんに櫻井、道端でなにやってんの」

不意に背後から飛んできた飄々とした声にシンが目を開け振り返る。見るまでもなく声と喋り方で誰だかわかっているのだが、俺も恨めしくそいつを見た

「明…」
「…あれ、もしかしていい雰囲気だった?やっだなー俺野暮なことしちゃった?ごめんね中村さん」
「い、いや!そんなことない!そんなことないぞ!なぁアヤト!」
「………」
「…アヤト?」

俺は沸々と湧き上がっていた。
怒りと悔しさが。
女の子が苦手な俺が頑張ろうとしていたのに。

そして今思えばその時俺はヤケだった。

「シン!」
「なに、……っ!」

ぐいっと肩を掴んで一気に距離を詰めると唇を重ねた。初めの感想は、すっげー柔らかい。それから、意外にしっとりしててぷるっと潤ってる。それから、それから、
とか考えてる内にシンに殴られた。顔を。横から。グーパンで。

「アヤトのバカヤロー!」

そう叫んでシンは繋いでた手を振り払って走り去って行った。
な、何でだよ!キス待ってたんだろ…!?ああもう女ってわかんねー!!(シンだけど)
そこに今まで黙っていた明が溜め息を吐き出す

「今のはないよ、ムードもへったくれもない。今のが初キッスだなんて中村さんかわいそう」
「おまっ、元はと言えばお前が声掛けて来なきゃ!」
「声掛けなくても櫻井キス出来なかったよ、賭けてもいい」
「なっ……ん…?…キスしようとしてるってわかってたのか…?」
「そりゃ見てたらね」
「で…声を掛けた…と?」

俺が顔を引きつらせながら言えば明は俺とは正反対、朗らかににっこり笑って言いやがった。


 
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