OR

□一生
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「誕生日おめでとう、竜崎」
「ありがとう、先輩」

付き合い始めた俺たちにとって第一の記念日とでも言えるだろうか、今日は竜崎の誕生日だ。俺の中に二つ存在した染色体ケミカルVも無事にミナさんの赤ちゃんに戻り、その赤ちゃんは女の子だった。
俺の中にはちゃんとしっかり男、中村進の染色体ケミカルVが残っている。それを思う度に少しだけ考える、もし女の染色体が残っていたら竜崎と普通に付き合えたんだよな、とか。(そんなことになったらそれ以前に問題がたくさんあるってわかってるけど)
やっぱり世間体ってものがあるから大っぴらに「俺たち付き合ってます!」なんて宣言はしていない。でもそれはちょっと寂しい。俺はこんなに竜崎が好きなのに、その思いを出し過ぎたら周りにバレて竜崎に迷惑を掛ける羽目になるんだ…うん、やっぱり寂しい。

「先輩、お肉焦げるよ」
「はっ」

竜崎の声に慌てて箸で肉を小皿に移す。そう言えば今は焼き肉屋にいるんだった。
本当は誕生日と言えばケーキだけど竜崎は甘いものが苦手だ。だから好きなものを食わせてやろう、と思ってやっぱり肉だよな、と行き着いた。初めてのデート…デートだよな、俺女子だったし、紛うことなくデートだ。その時ガツガツと美味そうに肉を平らげる竜崎は今思い出しても清々しいくらい肉好き!って感じを醸し出していた。そんなわけで焼き肉屋デート。

「ねぇ先輩」
「ん?なんだ?」
「僕ね、暫く考えてたことがあってさ。もし、もしだよ?先輩の中の染色体が女の子の方が残ってたら」

どきん、とした。やっぱり竜崎も…俺が女だった方が良かったのかな。胸の中でもやもやした気持ちが渦巻いていく。
竜崎の中で男なんかやっぱり嫌だって思う日がその内来たら?俺は堪えられるだろうか

「結婚出来たよなぁって」
「……………は?」
「でもよく考えてみたらさ、今時外国行けば結婚くらい出来るんだからノープロブレムじゃん?」
「ちょ、待て、お前」

結婚?結婚するのか?誰が?誰と?
いやわかってる、今の流れから確実に俺と竜崎の話だ。でも男同士だぞ!?

「シン」

真っ直ぐな瞳が俺に向く。澄んだ、胸がきゅんとなるような可愛い、そして格好良い瞳が。
俺は竜崎から目が逸らせなくて、ただじっと見詰め返すだけだった。それから竜崎はふんわり優しく微笑んで、

「僕が好きになったのは女でも男でもなくて中村進って言う人間なんだよ、何度も言うけど」
「あ……」
「なにを悩んでるか知らないけど、僕はシンといられればそれで幸せ!」

竜崎がぐっと身を乗り出して唇を触れ合わせた。かっと顔に熱が上がる、一気に火照る。でもそれは竜崎も一緒のようで嬉しそうに恥ずかしそうに頬を赤らめていた
それから、軽く瞼を伏せて一言だけ。

「だから…一生傍にいてね」

俺は何でかわからないけど胸にじんと来て視界が滲んだ。多分、嬉しかったんだ、嬉しすぎたんだ。
竜崎が驚いた顔をするから、煙が目にしみたんだよ、と苦しい言い訳をする

ああ、もう、

「一生離れてやらないからな」

ぼそっと呟いた一言は竜崎に届いたのか、どうなのか。



end
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