PH

□代わりに、
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ある曇に陰った天気が良いとはとてもじゃないが言い難い日。街中を皆で歩いている途中不意にオズ君がいなくなった。
鴉はと言えば「オズー!!」と顔を青くして真っ先に探しに行き、アリス君も「まったくしょうがない下僕だ」などと言いながらも心配そうに探しに行き、私は一人残ってしまった。「オイ、忘レンナヨ」ああごめんヨ、エミリー。(お嬢様は所用で来れませんでした)
私とエミリーは暫くその場で悩んだ後に仕方ないから探しますカ、と言い訳みたいに呟いてオズ君捜索に踏み出した。

「オズく…、オヤ」

名前を呼び掛けた時に路地をひょいと覗き込んだら、もう見付けた。暗い路地の奥の方に置いてある箱の前にしゃがみ込んで中をじぃっと見ているオズ君。一体何をしているのか。そろりそろりと近付いて後ろから覗いてみればそこには、

「子猫デスカァ」
「うっわ!ぶ、ブレイク!!」
「君、ちょっと無防備過ぎますヨ」

可愛い顔してそんなだと危ないお兄さんやらに連れて行かれますヨォ。冗談で言おうとして冗談にならないと気付いて私は口を噤んだ。
とりあえずオズ君の隣にしゃがみ込んで膝に肘をついて頬杖をしながら子猫の様子を窺った。どうやら大分衰弱しているようだ、この様子だと捨てられたのはそれなりに前。これはもう…

「助かりそうにないですネェ」
「……ん…」
「見捨てられたなら仕方ないカナ」

私の言葉にぴくりとオズ君の肩が動いた。どうしたのかとちらりと視線だけを向けると、何と云おうか、泣きそうな顔、と普通は表現するのかそんな顔をしていて私は不謹慎にも胸が高鳴った。
可愛イ。泣かせたい、鳴かせたい。でも決してなかないのだろうと思いながらその表情を眺めていて、アア、と理解した
重ねてるんだ。
親に見捨てられた自分と、飼い主に見捨てられた子猫を重ねて見ている。だからそんな顔をしてるんだ。

(悔しいですネ、私にはオズ君にあんな顔をさせることは出来ない)

彼にとっての絶対的な、"父親"と言う特別な存在が持つ力。狡いな、と切に思う。
オズ君は暫く黙っていたが不意に子猫から私に視線を移して口を開いた。

「半端な優しさってどう思う?」
「…君はどんな答えを求めてる?」
「訊いたのはオレだよ」

苦笑をこぼすオズ君に私は言いたかった、君が今一番望む答えをあげたいんだよ、と。
でも参ったことに人の心を推察する事に長けているはずの私ですらオズ君の心は計り知れない。彼が今何という言葉を望んでいるのか、わからない。"一時だけでもイイんじゃないカナ"?それとも"傷付けるだけだヨ"?
考えても考えてもわからなかった。だから、私はもしこの子猫がオズ君だったら自分がどうするか、と考えた。

オズ君が倒れ今にも死に逝かんとしていたら、

…私はオズ君を抱き締めずにはいられないだろう。例え彼が孤独に死にたいと思っていたとしても、私は彼を抱いて彼が死ぬまで、死んでも離さない。私の温もりが欠片でも伝わればいいと願い。
それに一度温もりを知ってしまえば、死を前にして温もりを求めないことはなかなかないだろう

「……抱いておあげなさい」
「え……いいの…かな」
「君はそうしたいんデショ?」

確証も無いのに全てわかったふりしてそう言った。でもオズ君はくしゃって笑って「ブレイクは何でもわかるんだね」と言って痩せこけた子猫を壊れものを扱うようにそっと抱いた。


それからその場に居続け何時間かした頃だ。
その子猫はオズ君の温もりに包まれながら静かに息を引き取った。オズ君が顔を上げる。私は黙って頷くほかにすることは無かった。
それとほぼ同時に曇った空からぱらぱらと小粒の雨が降り出した。その一滴がオズ君の目尻に落ちてつーっと頬を伝う、まるで、涙のように。

「空が泣いてる」

オズ君が呟いた。私はこう続けた。




「泣けない君の代わりにネ」



end


 
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