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□ひらひらと花が舞う頃
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グレンとジャックが二人、庭を散策していた時の話だ。
何の前触れもなく、しかし嫌みもなく不意にジャックは口を開いた

「いい季節だね」
「そうか?」

空(くう)を見詰めるジャックの視線を何気なく追えば散り落ちる花の花弁たち。この辺りには珍しい花だと聞いた、何という花だったか。しかし何か物悲しいものだ、そうグレンは思った。花の生涯と言うものは得手して短い。無残に散って死に逝くなどと。
外観はいつも通りながらぼんやりとした状態でグレンが思考に耽っているとジャックは唐突に身構えたかと思うとグレンに向かって体当たりをした。擬音にすると どぉん と言った感じで、いきなりの事にグレンは訳も分からないまま倒れ込んだ。ジャックもその横に身を倒した。
グレンがなにをする、と一言告げようと目を向けるとジャックは何かに向かって手を伸ばしていた。グレンには遥か空を目指すように手を伸ばしているように見え、そして彼なら届いてしまいそうにも見えた。
だがジャックは空など目もくれずひらひらと落ちてきた花弁を迎え入れるかの如く両手を広げた

「こんな綺麗に舞い終える、なんて素敵なんだろう」
「……」

まるで散った花弁たちがジャックの元へいく事を望むようにその広げた手の中へ舞い込んでいく。次第にジャックは花弁に包まれていった
グレンは散り行く花弁たちが無残だと思った。しかしジャックは綺麗だと、舞っていると言う。同じ人間と言う種族の同じ眼で何がそんなにも違う見え方をさせるのだろうか。
ふわりと、ジャックの髪に花弁ではなくまるで椿の花のように形を崩さず散ってしまったその花が乗った。妙に似合う、グレンはフッと僅かに口角を上げて花を落とさないようにジャックの髪をそっと撫でた。
ジャックは変わらずに花を呼び込みながら小さな、それでもはっきりした声で口を開く

「私も、この花のように静かに華やかに舞い終わりたいな」
「…静かと華やかは若干矛盾に感じるが」
「でもこの花はそうだから、私も」

いつしか視線は柔らかなものから少しばかり鋭い真面目なものに変わっていた。グレンは溜め息をもらしてジャックの額を小突いて一言だけ口にした

「終わりを考えるな、今を考えろ」

そう言われたジャックは目を丸くしてからふにゃりと情けなく笑った。




「そうだね、君と生きる、現在(いま)を」



end


 
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