PH

□あくむにみせられて
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  、あ




 なん、だ この 感覚

頭が、 くら くら する


脳内が何か おかしなものに
    侵食 されていく

止まらない


    破壊衝動
          が



(やめろ、やめてくれ)

必死に叫ぶ声は自分の中でこだまするばかり。無意味、そんなことを思っても叫ぶことしか出来なかった




愛しい人たち
大切な人たち

みんなを危険に晒している原因の一つはオレの存在

どうしたらみんなを守れる?
どうしたら誰かに壊さることを防げる?

それを考えていたら、




「壊される前に、
この手で壊してしまえばいいじゃないか」



 ぷつん、
        と

意識が途絶えた






目の前に景色と色がさぁっと戻ってきた
どれだけ経ったかは意識がなかったからわからない。ただ、絶望に突き落とすに相応しい状況がオレを迎えた
目に入るのは黒と赤。カーペットや壁紙に飛び散り変色した血の黒。手にした剣にはべったりと脂ぎった生々しい血の赤
ぽたりと滴り落ちる血の滴にオレは剣を放り投げて深く俯き目をかたく瞑った

有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない

そんなこと、有り得ない

「何が有り得ないのですか?」
「っ、シャロンちゃん!」

オレは唐突に聞こえた声にああよかったと余りの喜びに声高らかに彼女の名前を呼ぶ、だが自分の身に襲い掛かってきたのは吐き気ばかりだった
声のした方に顔を向ければ彼女は腑を撒き散らし倒れた状態で顔だけをこちらに向けて微笑んでいた。グロテスクな光景に思わず口元を押さえて逆流してきたものを何とか流し込む。

「有り得ないはずない、お前の他人を傷付けたくないと言う気持ちが強すぎただけだ」
「ギ…ル」

ギルの声を聞いて、見るのが怖かった。喉をごくりと鳴らしながらゆっくり振り返ればそこには血には塗れていたが臓物も出ていなければ傷も見当たらないギルが立っていた。
オレがほっと安堵の溜め息を漏らした時ギルは笑った。それと同時にずずっとイヤな音をたてて、ギルの首が斜めにずれて、 落ちた

「っ…!!!」
「何を驚いているんだ?お前が」



斬ったんだろう



首だけになったギルの唇からこぼれた言葉がオレを混乱へ陥れる。オレは、本当に、みんなを、?
握った剣が手に馴染んでいる、
(使ったことなんてろくにないのに)
本当に、本当に、本当に、

「オズ君」

また唐突にブレイクがオレを呼ぶ声が届いた。彼は一体どんな状態で現れるんだ?大切な存在が壊れ崩れていく様がこんなにも怖いなんて

怖い怖い怖い怖い怖い怖い


( 怖 い )


剣を手放し両の手で耳を塞いで座り込んだ。もうイヤだ、みんなオレが、

ぐるぐると頭の中を巡り回る思考は恐怖と苦しみとそれらから逃げたいと言う思いばかりだ

「オズ君!」

またブレイクの声が聞こえる。いつもとは違う、少し焦ったような、聞いたことのない声音だった。だからついオレは惹かれるように顔をあげた。そこには光から手が伸びていた

「ブレイ…ク…?」
「手を取りなさい、早く」
「う、うん」

なぜか、ブレイクのものだからだろうか…その声は、その手は怖くなかった。寧ろいつもより優しさを帯びていて…
だから取った、縋るようにその手を。





「―くん、オズ君」
「…?」
「現状わかりますカ?」
「…わからない」

眼を開くとオレはなぜかブレイクの腕の中で寄りかかる状態になっていた。血には塗れてないし剣もないし、さっきまでのことがまるで…

「夢です」

思考を読み取られていたかのように言葉を先に取られてオレはぱっとブレイクの顔を見上げた。彼はいつもと変わらない顔でいつもと違う優しさでオレの頬を撫ぜた
こういう対応をされるとなんだかくすぐったくなる

「チェインに接触したのは覚えてますか?質(たち)の悪い、その者の一番の悪夢を見せるチェインです」
「……」
「覚えてないんですネ?」
「…ごめん…」
「謝ることではないでしょう?オズ君らしくない」

オレはブレイクと暫くやり取りをして漸く先程までのアレが夢、悪夢だったのだと理解出来た。解放されたのはきっとブレイクのチェインの力
オレは心の底から安堵していた。シャロンちゃん、ギル、ときたら次はブレイクが来ていたかも知れない。一番の悪夢、そこでブレイクが出て来たらどうなってしまうのか、想像しただけで恐ろしい。


 
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