#KB

□さくら
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それは偶然だった

本当に、ただの偶然


「っ…」

間違いない
確信を持って目の端で捉えたそれを追いかけた

あいつだ

嬉しくて嬉しくて口許が弛んでるのがわかった

ああそうだ
賢いやつなんだから、呼べばわかるかな?

「っ…さくら一号…!」

もう全力疾走みたいな状態で、絶え絶えになる息
それでも絞り出した声に、そいつは「くぅん」と鳴いて漸く止まった

「…っ…やっぱり!」

ぬいぐるみみたいにふわふわした体
大きくなってるけど全然変わってない
駆け寄って抱き上げた

「へへっ…久し振りだな、オレのこと覚えてるか?」

撫でながらそう言うとさくら一号は答えるように「わん!」と鳴いた

今は桜の咲く季節
つまりさくら一号が誰かに拾われてからもう一年も経ったんだよな
ぎゅっと抱き締めるとさくら一号はペロペロと頬を舐めてきた

毛並みはふわふわで抱き心地が良くて、ああ大切にされてるんだな、って思う

何だか胸があったかくなって自然に笑みがこぼれた


突然、さくら一号が俺の腕からすり抜けて地面に降りる
そのまま近くに来ていた人の足下にすり寄って

もしかして、飼い主?
そう思って顔を上げると、目が合った

「…あれ…君…」
「……あ…」

…覚えてる
このムカつくくらい格好良くて、爽やかな顔

「えっと……かなめくん、だよね」

にっこりと笑みを向けられて名前を呼ばれて凄く困った
普通忘れるだろ、一年以上も経ってるんだから

「あ…あんたが……そいつ拾ったのかよ…」
「え?…もしかしてかなめくんが捨」
「んな訳ねぇだろ!しゅんたちと、世話してたんだっ…桜の木の下で」

怒鳴るように言って顔を背ける
何でかこの人相手だと冷静にいられない自分が不思議で、それにまたちょっとイライラした

「そっか…じゃあもしかして悲しませちゃったのかな」
「…え?」
「かなめくんたちが育ててたのに、お兄ちゃんが連れてっちゃって…」

そっと優しく頭を撫でられた。
顔にはいつも同じ笑みが浮かんでる

あぁ 本当に会いたくなかった

「……こいつは…あんたに拾われて幸せなはずだろ…」

オレが出来ないこと、この人は何でも出来るんだ

さくら一号を拾ったことも
そのことでオレみたいなガキを気にすることも

オレがこの人と同じくらいに成長しても、こうはなれないんだと思う

「…かなめくんは優しいね…、ちゃんとこのこの幸せを考えてあげられるんだね」
「……」

首を振るオレの頭をその人はもう一度撫でる
その手は凄くあたたかくて優しかった

「かなめくんが優しいから、さくらもかなめくんを覚えてたんだよ」
「…さくら?」


 
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