針谷幸之進
□温泉に行こう
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「天然温泉のスーパー銭湯…」
そう大きく書かれていた。
「隣の市にできたんだって」
その話は雑誌かなんかで読んだけど、まさか…だからって…スーパー銭湯はないだろっ!?
「り、料理が美味しいってのは…?」
「スーパー銭湯の中に入ってるお店で、すごく美味しいお店があるんだって」
「…景色が良いってのは?」
「新しくて、内装とかキレイだって聞いたけど…」
「はああぁぁ〜……」
オレはこれ以上出ないじゃないか、というくらいの大きなため息がでた。
ひとりで盛り上がって勘違いして、バカみてぇじゃん。つうか、バカだな…
「やっぱり、イヤだよね…」
「イヤっつうか…。別に相手がオレじゃなくても良いんじゃねぇの?」
むしろ、女同士で行ったほうが、いろいろ楽しめるところだと思う。
「でもね、割引き券をもらった時、一番にハリーのことが浮かんだの」
うっ…
一番にオレのこと?
「それに、バイトとかバンド活動とかで疲れてるだろうから、温泉に入れば、少しでも休めるかなって思ったんだけど…」
な!なんだ、こいつは!?
素で、そんな可愛いこと言えるなんて、末恐ろしいぞ!
「い、イヤだなんて行ってないだろ!ちょうど温泉に行きたいって思ってたところでさ、あはは…」
「ホント?」
「行こうぜ、スーパー銭湯!結構テレビとかで騒いでたから、混んでるかも知れないけどな」
「うん…ゴメンね」
「なんで謝るんだよ」
「だって…。本当は、熱海とか伊豆とかに連れていってあげれればいいんだけど…」
しょぼんとしている彼女が、たまらなく愛しくみえた。
「バーカ!その気持ちだけで十分だってぇの」
そう言って彼女の頭をガシガシっと撫でた。
「わっ、ちょっと〜」
「それに、温泉旅行はオレが誘うから…」
「え?」
「な、なんでもねぇ!」
爆弾発言だったか?でも、事実だし…
「ほら、行くぞ」
強引に彼女の手を握る。
「じゃあ…次の日曜日でいいか?」
彼女の表情が一気に明るくなる。
「うんっ!!」
温泉に癒されなくても、こいつが隣にいてくれれば、何もいらないな、とおもえるから不思議なんだよな…
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