針谷幸之進

□幸せが逃げないように
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――楽屋で

バンッ

「ハリー!?大丈夫?」
「あ?」

勢い良く楽屋のドアを開けると、服を脱いで上半身裸になったハリーが立っていた。

「うわっ!オマエなんでここに」
「大丈夫なの?何かあったの!?」

裸のことなんか気にせず、ハリーに詰め寄る。

「はぁ?別に何もねーけど…?つうか離れろ!」

そういうと、突き返されてしまった。

「何もって…本当に?」
「だからこっち見んな」

一体どういうことなんだろう…?

「あっれ〜、おかしいなぁ。お前ライブ終わってからずーっと溜め息つきっ放しだったよな」

そう言ってるのは、私を迎えに来た彼だ。

「んなの、いつものことだろ!」
「でも、今日はバッチリ歌えてたじゃん」
「あんなんで満足してるわけねぇだろ」
「じゃあやっぱりライブのことで溜め息ついてたのか?」
「それ以外、なんだって言うんだよ」

するとバンド仲間たちは、ふふーん、とにやけてこう続けた。

「いつも彼女のこと思って溜め息ついてるから、今日もそれかと思った」
「だよなぁ」
「え…」
「はぁ!?な、なに言ってんだよ」
「だってな〜」
「ほんとのことだし〜」
「ち、違〜う!!」

きょとんと立っている私に、バンド仲間たちは更に話続ける。

「歌詞書いてる時もさ、『あいつ今何してんのかなぁ』とか」
「学校の話聞いても、君のことばっかりなんだよ」
「うるせぇ!黙れ!」

ハリーの顔が心なしか紅い気がする。

「もういい、帰る」

イスにかけてあったTシャツを着て、そのまま楽屋から出ていってしまった。

「ちょっとハリー!!」
「ついてくんなっ」

バタン、と勢いよくドアが閉められた。

「……あ」
「大丈夫だよ。照れてるだけだから」
「そうそう。あいつ口はキツいけど、根はいい奴だからさ」
「…はい」
「それに、君に相当惚れてるみたいだし」
「これからも、コウのことよろしくね」
「こちらこそ!ハリーのこと、よろしくお願いします!!」
「行ってやりなよ、あいつ、きっと待ってると思うよ」
「はいっ」

ハリーに閉められたドアを今度は勢いよく開けて部屋から飛び出す。

もう、とっくに決めてたことじゃない。ハリーに女の子のファンが多くても、いつか大スターになっても、私はハリーをどこまでも追いかけて行くって…
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