佐伯瑛

□昔と今
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「もしかして、佐伯君?」

ショッピングモールのレディースフロアにあるベンチに座って休んでいるところに、女の人に声を掛けられた。

やばい…学校のやつだったらどうしよう、と疲れた表情から一瞬で作り笑顔に切り替える。

「やぁ」

爽やかに、でもわざとらしくならないように自然に顔を上げると、そこにいたのは学校のやつではなかった。

「やっぱり佐伯君だ!久しぶり」
「え…桜庭…?」
「うん」

桜庭明日香。彼女は中学の同級生で、一応元カノだ…。

「ここにいるってことはデート?」
「あぁ…」

桜庭には中3の時に告白された。成績優秀、スポーツ万能、おまけに容姿端麗ときたもんだ。男子のアイドルだった彼女に告白されて、断るやつがどこにいるだろうか。

「聞いたよ〜、相変わらずモテモテなんだってね」
「別に…」

またまた〜と笑っている顔は中学の時から変わっていない。

「桜庭は?元気だった?」
「うん。元気すぎて困っちゃう」

サバサバした性格も、変わってないな。

「髪、伸びたな」
「似合うでしょ」
「うん」

中学の時はショートカットだった彼女も、今では肩より下まで伸びていた。俺たちが別れてからの時間を感じさせるものだ。

「うわ、ビックリ…。中学の頃の佐伯君なら絶対『変!』って言ってたのに」

確かにそうかもしれない。好きな人には冷たくなる。昔からそうなんだ。

「そうか?本当だよ、似合ってる」
「うふふ、ありがと」
「お前もデートか?」

彼女がひとりで来ていることに気付き、思い切って聞いてみた。

「ううん、友達と買い物。あ、安心して高校の友達だから」
「そっか…」

実は彼女とハッキリと別れた記憶がない。よくある自然消滅ってやつだ。“付き合う”というのがどういうことかもわからなくて、登下校を一緒にする程度だったし、もちろんそれ以上は何もなかった。
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