佐伯瑛

□ケンカ両成敗
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―――屋上で

「佐伯君、離してよ」

私の腕をつかんでいた手がようやく離れた。

「ごめん…」

さっきの勢いとは裏腹に、しょぼんと落ち込んでいる佐伯君は突然謝ってきた。

そして無言になり、ふぅ、と深呼吸をしてから喋り出す。

「さっきのことだけどさ」
「うん…」
「本当はあんな風に言うつもりなかったんだ」
「うん……」
「あ゛ぁ〜ほんと情けないな、俺」

頭をくしゃくしゃと掻いてはあ゛ぁ、と声を出している。

「そうかな?私は嬉しかったけど…」
「は?」
「私のこと好きだって…勢いでもそう言ってくれたこと。すごく嬉しかったよ」

そう言う私を見て大きな溜め息をつく。

「はぁ〜お前さ、告白ってもんは、なんかもっとこう…」
「私も好きだよ」

ただただ、まっすぐに佐伯君だけを見つめている。

「な、なに言ってんだよ!ほんと信じられないやつだな」

さすがの佐伯君も照れてしまったようで、顔が真っ赤になっている。

「佐伯君こそ!人が真剣に答えたっていうのに…」
「ここは真剣に答える場面じゃないだろ」
「じゃあどうしてほしいのよ」

ここまで天の邪鬼だともうあきれるしかない。

「とにかく!!俺以外のやつに告白されても、絶対に断れ」
「えー、どうしようかな〜」
「なぁ、そこは真剣に答えろよ」
「うふふふ」
まるで夫婦漫才みたいなノリツッコミだったから、おかしくてつい笑ってしまった。

「笑うなよ…」
「だっておかしくて」

まだ笑いは止まらない。佐伯君もつられて笑っている。

「まぁ、いっか」
「ん?なにが?」
「なにがって…だから俺はお前のことが好きで、お前も俺のことが好きなんだろ?それでいいんだよな」

結局、改めて告白はしてくれなかったけど、今の言葉ですべてが丸く納まった気がした。

「どうかな〜」

これはほんのイジワル。

「はぁ?どうやらお前にはウルトラスーパーチョップが必要みたいだな…」
「うわぁ、ウソ、冗談だって〜」

ごめーん、と言いながら屋上を走り回るふたりは、誰がどこから見てもお似合いのカップルなのでした。


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