佐伯瑛
□ケンカ両成敗
2ページ/3ページ
―――屋上で
「佐伯君、離してよ」
私の腕をつかんでいた手がようやく離れた。
「ごめん…」
さっきの勢いとは裏腹に、しょぼんと落ち込んでいる佐伯君は突然謝ってきた。
そして無言になり、ふぅ、と深呼吸をしてから喋り出す。
「さっきのことだけどさ」
「うん…」
「本当はあんな風に言うつもりなかったんだ」
「うん……」
「あ゛ぁ〜ほんと情けないな、俺」
頭をくしゃくしゃと掻いてはあ゛ぁ、と声を出している。
「そうかな?私は嬉しかったけど…」
「は?」
「私のこと好きだって…勢いでもそう言ってくれたこと。すごく嬉しかったよ」
そう言う私を見て大きな溜め息をつく。
「はぁ〜お前さ、告白ってもんは、なんかもっとこう…」
「私も好きだよ」
ただただ、まっすぐに佐伯君だけを見つめている。
「な、なに言ってんだよ!ほんと信じられないやつだな」
さすがの佐伯君も照れてしまったようで、顔が真っ赤になっている。
「佐伯君こそ!人が真剣に答えたっていうのに…」
「ここは真剣に答える場面じゃないだろ」
「じゃあどうしてほしいのよ」
ここまで天の邪鬼だともうあきれるしかない。
「とにかく!!俺以外のやつに告白されても、絶対に断れ」
「えー、どうしようかな〜」
「なぁ、そこは真剣に答えろよ」
「うふふふ」
まるで夫婦漫才みたいなノリツッコミだったから、おかしくてつい笑ってしまった。
「笑うなよ…」
「だっておかしくて」
まだ笑いは止まらない。佐伯君もつられて笑っている。
「まぁ、いっか」
「ん?なにが?」
「なにがって…だから俺はお前のことが好きで、お前も俺のことが好きなんだろ?それでいいんだよな」
結局、改めて告白はしてくれなかったけど、今の言葉ですべてが丸く納まった気がした。
「どうかな〜」
これはほんのイジワル。
「はぁ?どうやらお前にはウルトラスーパーチョップが必要みたいだな…」
「うわぁ、ウソ、冗談だって〜」
ごめーん、と言いながら屋上を走り回るふたりは、誰がどこから見てもお似合いのカップルなのでした。
end→あとがきへ