月森蓮

□先手必勝
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〜放課後、音楽科棟〜

「月っ森く〜ん♪」

鼻歌まじりにスキップしながら駆け寄ってきたのは、見たくない顔No.1の彼女だった。

「…天羽さん……」
「ちょっと〜あからさまにイヤって顔しないでよー」
「事実、君が近寄ってくる時はろくなことがないからな」
「そんなこといって〜。でもさ、今回は良い情報GETしたんだよ」
「良い情報?」
「気になる?」
「………」
「なにさ、そのどうでもいいって顔は」
「はぁ…」

俺は感情が顔に出るタイプでは無かったのだが、彼女に出会ってからは伝わりやすくなったと自分でも思う。“彼女”というのは、目の前でニヤニヤしている天羽さんではなく…

「ご期待どおり、日野ちゃん情報〜!!」

やはりそう来たか…。なぜかはわからないが、最近妙に日野さんのことを俺に話してくる。彼女とはコンクールの参加で一緒になってから、少しずつ親しくはなってきた。だが、それ以上でも以下でもない、と自分では思っている。

「…練習室を借りているんだ。失礼する」

…しかし、彼女に興味が無いわけではないのは自覚していた。だからこそ、天羽さんの話を聞き流そうと必死になるのかもしれない。

「え〜、聞かないで行っちゃうの?」
「君に構ってる暇はない」
「はいはい、そうでしたねー」
「じゃあ」

天羽さんの横を通りすぎようというとき、彼女が話し出した。

「日野ちゃんさ、最近『虹の彼方に』って曲を練習してるらしいよ」
「………」

去り際に話しかけられたのはいいが、どう反応するべきか考えてしまい、つい立ち止まってしまった。

「しかも、ソロ用の楽譜がなくてデュエット用の楽譜でね」
「………」
「なんかピアノ伴奏できる人を探してるって言ってたから、土浦君あたりに声かけるのかな」

天羽さんの情報はいつもうっとうしいが目敏いのは確かだ。きっと今回の情報も確かなのだろう。

「あれ〜練習室に行くんじゃないの?」
「用事を思い出した」
「ふーん、そう」

自分でもわからないが、俺は図書室に向かって歩き出していた。

「ふふっ、月森くんってホントわかりやすいんだから」



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