月森蓮
□山を越えて
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整った綺麗な顔立ち、サラサラとしている髪、見つめられると動けなくなってしまうその瞳…
そんなすべてにおいて完璧とも言える彼は、私なんかのどこが良いんだろう…
「…ん?」
「!!!」
しばらくの間、彼の顔をぼーっと見つめていた私は、彼と目が合ってドキッとしてしまった。
「どうかしたのか?」
「べ、別に…」
私の行動に首を傾げてはまた本を読みはじめる。
ここは市立図書館。日曜日の今日は子供連れの家族が多いように見える。
珍しく月森君からデートに誘ってくれたから、嬉しくて行き先を聞かなかった。でもまさか図書館だとは……せっかくのデートだよ?もっと遊園地とか動物園とかあるでしょ?と、思わなかったわけでもない。
だけど月森君がそういうスポットに誘ってくれるのもなんか不自然な気もするし…
どっちにせよ、こうしてふたり向かい合わせで座っていられることが、案外嬉しかったりもするのである。
チラチラと彼を見ては、その美しさに思わず溜め息が出てしまう。
「香穂子。進んでいないようだが、何かわからないことでも?」
「え!あ、うん…」
わからないのはあなたの気持ち…なんて言えるわけもなく
「この音楽表現なんだけど…」
なんとなく指をさした先にある記号を彼は真剣に見ている。
「これか?espressivoだな、これは感情を込めて、という意味だ」
「エスプレッシーボ…」
「棒読みだな」
「だって難しいよ」
そういう私を見て、彼は優しく微笑んでこう言った。
「君はいつも感情的だから、この表現は必要ないかもしれない」
「うぅ……」
「褒めているんだが?」
「月森君が冷静過ぎるんだよ」
「…そうかもしれない」
「いや…あの…」
いつの間にか彼の顔から笑顔が消えていた。
「香穂子。この後行きたいところがあるんだが、いいだろうか」
もしかしてこれからが本番なの!?一気に胸が高鳴る!
「もちろん!」
「そうか」
じゃあ5分後に、と言って読んでいた本を片手に彼は席を離れた。