月森蓮
□エルガーの教え
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放課後の音楽室。
俺はなぜかそこにいる。自分の意志ではなく、無理矢理連れてこられたのだ。
「ようこそ、日野先輩。それと月森先輩も…」
「お邪魔するね、冬海ちゃん」
「………」
一緒に帰ろう、とわざわざ音楽科まで来て言うからおかしいとは思った。だが彼女に誘われて嬉しいという気持ちのほうが勝っていたため、こういうことになってしまったのは自分のせいと言えなくもない。
はぁ…とついた溜め息に彼女は敏感に反応した。
「月森君、ここまで来て溜め息はないでしょう」
オケ部がいやなわけではなく、彼女に易々付いてきた自分にあきれているのだ。
「すまない…」
「いいけど。ね!せっかく来たんだし演奏聞いて行こうよ」
「そうだな」
オケ部の練習見学は、実は今回が初めてだった。避けてきたわけではないが、自分のなかで縁の無いものだと決め付けていたらしい。
部員は総勢60名ほどで、もちろん全員音楽科。学年は問わない。ただ受験シーズンのため3年生は少ないように見える。
「あっ、日野ちゃん」
後ろから元気いっぱいの声が聞こえてきた。
「火原先輩」
「こんにちは!今日も見学?」
「はい、お邪魔してます」
「ううん、全然っ大歓迎だよ」
にこっと笑うその姿は俺には絶対に真似できないものだと思った。
「あれっ、月森君も一緒だったんだね」
「お邪魔します」
ようやく気付いたようで、俺は軽く頭を下げた。
「いいえ!楽しんでいってね」
じゃーねと言い、舞台のほうへ駆けていった。
「火原先輩は相変わらずだな…」
「うふふ、ほんと」
彼女に笑みが戻った。やはり彼女の笑顔は良い。
「座ろうか」
「うん」
俺たちは全体が見渡せる真ん中から少し後ろの席につくことにした。
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