月森蓮
□間接キス
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「あれ?月森君、珍しいじゃない」
そう声を掛けて来たのは報道部の天羽菜美である。珍しいのもそのはず。昼食のほとんどをカフェテリアで過ごしている俺が、今こうして購買のあるエントランスにいるからだ。
「君か…」
彼女には家のことをはじめしつこく取材を受けているため、顔を見るたびに溜め息がでてしまう。
「あ、その顔、私じゃ不満って顔だね」
不満というよりは不快のほうがあっているだろう。
「安心しなよ、もうじき日野ちゃんも来るからさ」
ふふふ、と意味ありげな笑みを浮かべ、彼女は立ち去っていった。
別にそんなつもりでここに来たわけではない。ただ、期待していなかった、といえば嘘になる…。
何気なく辺りを見渡してみるが、今のところそれらしき姿は見当たらない。別に探しているわけではない…
ようやくサンドイッチとヨーグルトを手に入れ、混雑した群衆から抜け出すことができた。と同時に、やはり俺にはカフェテリアがあっていると実感させられる。
「あ、月森君!」
争奪戦で乱れた制服を整えていると、期待していた声が聞こえてきた。
「あぁ、君か」
彼女も購買で買った昼食を手にしていた。
「良いやつ買えた?」
俺がここにいることをなんとも思っていないらしく、袋の中身を訪ねてきた。
「まぁ」
「そっか、良かったね〜」
と言い、何かに気付いたように付け加えた。
「あ、飲み物はいいの?」
「そうだな…」
購買で買った昼食をカフェテリアで食べようと思っていたので、飲み物はいらないだろうと買わなかった。
「じゃあ、これ飲んでみない?」
そう言って彼女が渡してきた紙パックの飲み物には、《フルーツ・オ・レ》と書いてある。
「これは?」
すでにストローが差してあり、量も少し減っていた。
「友達に薦められて初挑戦してみたんだけど、どうも好みの味じゃないっていうか…」
彼女の舌には合わなかった、ということだろう。表情からも伝わってくる。
「月森君、飲んだことある?」
カフェ・オ・レならたまに口にするが、フルーツとなると耳にしたこともない。
「いや…」
「ホント!?じゃあ飲んでみて、あとで感想教えてよ」
香穂ちゃーん、と普通科の生徒が彼女を呼んでいる声がする。
「じゃあ放課後ね!」
と言い残し、足早なその場から立ち去ってしまった。