金澤紘人
□良いもんだな
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“恋愛”というのをもう何年もしていないせいか、俺はどうしたらいいのかわからないでいる。
しかも相手は高校生。
つまり教師と生徒ってわけだ。
映画や小説の中なら許されるものの、今こうして俺の目の前で起きている。
「先生〜」
森の広場で猫と戯れているところにタイミングよく現れたのは、俺の悩みの張本人だ。
「また猫神様と一緒ですか?」
「まぁな」
一人で考え事をしたい時は森の広場に逃げ込むが、いつもこいつに見つかってしまう。おかげで猫たちも懐いてしまい、彼女がおいで、と呼べば俺の体から簡単にすり抜けてしまうくらいだ。
「どうした。なんか用か?」
「用が無かったら来ちゃいけないんですか?」
そう言われるとどう返していいかわからなくなる。
猫を抱き上げ、まるで猫に話かけているように話しだす。
「猫神様、最近金澤先生が冷たいのはなんでですかねぇ〜」
わざとらしくこちらの反応を伺っている。
冷たくした覚えはない。だが、これからどうするべきか考えていて、少し距離をおいていたのだ。
タイミング良く鳴き声をあげ、まるで返事をしたようだった。
「猫神様は何でもお見通しだな」
がはは、と笑って誤魔化してみるが、彼女は納得していないようだ。
「私何かしましたか?」
今度はこちらを見て、真剣な表情で聞いて来る。
何かしたかといえばしてない。だが何もしてないとも言えない。やはり悩みの種はこいつなのだから。
「身に覚えでもあるのか?」
冗談で言ったつもりだったが、彼女の表情は暗くなり、今にも泣きそうになってしまった。
「冗談だって」
そんな表情を見てしまうと、自分の言った言葉に後悔してしまう。
「私は先生と一緒にいたいだけなのに…」
そんなことを簡単に口にしないでくれ。俺の中で自制してきたことがあっさりと崩れてしまいそうになる。
俺だって…できることならそうしたいのに。
そう思っていると、彼女の携帯が鳴りだした。
「もしもし…土浦君?」
相手は土浦だ。たぶん放課後の練習の誘いだろう。普通科のよしみもあり、こいつとは仲が良い。でもそれだけじゃない。恐らく彼女に対し普通以上の気があるに違いない。
「うん、大丈夫だよ。うん、わかった。じゃああとでね」
そう言って電話を切り、膝の上にいた猫を地面に下ろして立ち上がった。
「じゃあ私行きますね」
無理矢理笑顔を作っているのがわかる。
このまま行かせてもいいものか…考えるより先に身体が動いてしまった。
「………!?」
俺は立ち去ろうとする彼女の左手をつかんでいる。
「先生?」
何も言わない俺を困った顔で見ている。