金澤紘人
□ホワイトデー前の休日
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日曜日の駅前通りは、人、人、人。
ホワイトデーが近いからなのか、カップルが多い気がするのは俺だけだろうか。
「はぁ…」
自然と溜め息がでてしまう。
それもそのはず…
30を過ぎた男が独りでこんなところにいるなんてありえない。
こんなところ…とは言い方が悪いかも知れないが、俺は普段なら絶対に足を踏み入れることのない、“雑貨屋”という場所にいるのだ。
――我慢だ、我慢…。
俺はただバレンタインデーのお返しを何にしようか、探しに来ただけだ。
とは言っても義理用ではない。
あいつは俺に『特別』と言って渡してくれた。
だから俺だって本気で返してやりたいんだ。
――だけどなぁ…
「はあぁ……」
さっきよりも大きな溜め息がでる。
きらびやかなアクセサリーや、可愛らしい服が並ぶ店内で、近くにいたカップルの話が聞こえてきた。
「ホワイトデーさ、何か欲しいものある?」
「えー、それ聞くの?私サプライズがいいー」
――何がサプライズだ。考えるほうの身にもなれ!
「指輪は?」
「うーん…いいけど普通すぎ」
「花も?」
「もっと違うのが良い」
――わがままな女だ。だったら何だっていうんだよ…
カップルの会話に頭の中でツッコミをいれてみた。
「いらっしゃいませ〜、何かお探しですか?」
「うわっ!!」
“雑貨屋”の店員がなんの迷いもなく俺に話かけてきた。
「いやぁ……」
――ん?待てよ。
用が無いのに雑貨屋に独りでいる30男はありえないな…
とっさに判断した俺は白状することを選んだ。
「あの…ホワイトデーのお返しを選びに」
めちゃくちゃ恥ずかしい気持ちを抑え、笑顔の店員に答えた。
「お相手の方は彼女さんですか?」
――彼女……今までは生徒だったけど、これからは彼女って扱いでいいんだよな
「まぁ…」
あいつを彼女だと認めてしまった。
なんだか独り緊張しているが、店員は気付くことなく話を進めていく。
「最近ですと、アクセサリーやお花、クッキーなどのお菓子よりも、香水を渡される方が多いですね」
「……香水…」
――最近はそんなものをあげるのか
10数年前はホワイトデーのお返しもバレンタインデー同様、お菓子が一方的だったろう。
「彼女さんのイメージにあった香水をプレゼントされる方が多いみたいですよ」
「はぁ…」
あいつのイメージ…
簡単なようで難しい気がする。
「すみませ〜ん」
さっきのカップルが店員を呼び出した。
「では、ごゆっくりお選びくださいませ」
「どうも……」
あの男は何を買ってあげたのか、少し気になるが、俺は自分のことを先に考えた。
なにより、こんな店から早く逃げ出したいから…。
「あっれぇ、金やんだ」