金澤紘人

□ホワイトデー前の休日
1ページ/4ページ

日曜日の駅前通りは、人、人、人。

ホワイトデーが近いからなのか、カップルが多い気がするのは俺だけだろうか。

「はぁ…」

自然と溜め息がでてしまう。

それもそのはず…

30を過ぎた男が独りでこんなところにいるなんてありえない。

こんなところ…とは言い方が悪いかも知れないが、俺は普段なら絶対に足を踏み入れることのない、“雑貨屋”という場所にいるのだ。

――我慢だ、我慢…。

俺はただバレンタインデーのお返しを何にしようか、探しに来ただけだ。

とは言っても義理用ではない。


あいつは俺に『特別』と言って渡してくれた。

だから俺だって本気で返してやりたいんだ。


――だけどなぁ…

「はあぁ……」

さっきよりも大きな溜め息がでる。

きらびやかなアクセサリーや、可愛らしい服が並ぶ店内で、近くにいたカップルの話が聞こえてきた。

「ホワイトデーさ、何か欲しいものある?」
「えー、それ聞くの?私サプライズがいいー」

――何がサプライズだ。考えるほうの身にもなれ!


「指輪は?」
「うーん…いいけど普通すぎ」
「花も?」
「もっと違うのが良い」

――わがままな女だ。だったら何だっていうんだよ…

カップルの会話に頭の中でツッコミをいれてみた。

「いらっしゃいませ〜、何かお探しですか?」

「うわっ!!」

“雑貨屋”の店員がなんの迷いもなく俺に話かけてきた。

「いやぁ……」

――ん?待てよ。
用が無いのに雑貨屋に独りでいる30男はありえないな…
とっさに判断した俺は白状することを選んだ。

「あの…ホワイトデーのお返しを選びに」

めちゃくちゃ恥ずかしい気持ちを抑え、笑顔の店員に答えた。

「お相手の方は彼女さんですか?」

――彼女……今までは生徒だったけど、これからは彼女って扱いでいいんだよな

「まぁ…」

あいつを彼女だと認めてしまった。
なんだか独り緊張しているが、店員は気付くことなく話を進めていく。


「最近ですと、アクセサリーやお花、クッキーなどのお菓子よりも、香水を渡される方が多いですね」

「……香水…」

――最近はそんなものをあげるのか

10数年前はホワイトデーのお返しもバレンタインデー同様、お菓子が一方的だったろう。

「彼女さんのイメージにあった香水をプレゼントされる方が多いみたいですよ」

「はぁ…」


あいつのイメージ…
簡単なようで難しい気がする。

「すみませ〜ん」
さっきのカップルが店員を呼び出した。

「では、ごゆっくりお選びくださいませ」
「どうも……」

あの男は何を買ってあげたのか、少し気になるが、俺は自分のことを先に考えた。

なにより、こんな店から早く逃げ出したいから…。


「あっれぇ、金やんだ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ