針谷幸之進
□幸せが逃げないように
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最高に盛り上がって終わったライブハウスの中は、まだ熱気が残っている。
ハリーのバンドが取だったせいか、出口で待っていると聞こえてくるのはハリーのバンドの話ばかりだ。
「ハリー、カッコよかったよね!」
「ホントホント!」
「次のライブも楽しみ〜」
「私、絶対行く〜」
「ハリーの曲の歌詞最近良いよね」
「あたしも思ったぁ!なんか胸に染みるっていうか」
「絶対彼女のこと思って書いてるよね」
「やっぱりいるのかな、彼女」
「いるでしょ〜きっとすっごい美人だよ」
「っていうか美人じゃなきゃ許さない」
「そうそう」
と、ハリーのバンドのファンは多すぎるくらい女の子ばかりだ。もちろん、ファンが多いのは嬉しい。嬉しいけど…
「コウの彼女さんだよね?」
下を向いて立っているところに、男の人から声を掛けられた。
「あ、えっと、バンドの…」
その人はハリーの本名幸之進のあだ名で“コウ”と呼ぶ、唯一の人たち、ハリーのバンドの仲間だ。
「急で悪いんだけどさ、今から楽屋に来てくれないかな?」
「え…」
ハリーとは、ライブが終わってから出口で待ち合わせして一緒に帰る約束をしていたのに、何かあったのかな?
不安になった私は、楽屋へと急いだ。