若王子貴文
□初デートの誘い方
1ページ/3ページ
「すみません、遅くなりました」
「先生、大丈夫ですよ、そんなに待ってませんから」
息を切らして化学準備室に入ってきた若王子先生のこの台詞だけ聞くと、まるでデートの待ち合わせをしているように感じる。しかし白衣を着ている先生を見ると、ここは学校なんだと実感してしまう。
「今日は何の仕事ですか?」
学級委員に任命されたわたしは、放課後化学準備室で若王子先生の仕事を手伝うのが日課になっている。
「仕事というか、お悩み相談室です!」
「お悩み相談室?」
そう言ってイスに座った先生は、深い溜め息をついた。
「はい…課外学習のことなんですけど」
「どうかしたんですか?」
「実は…」
「………」
普段は見せない、とても深刻な顔をしている先生の顔を、思わず凝視してしまう。
「もう行くところがないんです」
「………はぁ?」
悩みってそのこと?なんか想像してたより大したことないような気がする。
「あらゆる場所に行きました。映画館、水族館、植物園、海、はばたき城…先生はこれ以上どこに連れて行ったらいいのでしょう?」
わたしが思っているより、先生にとっては重大な問題のようだ。
「どこって…」
先生はわたしを見つめて、真剣に答えを求めている。
「そうですねぇ…思い切って遊園地とかは…」
「先生も考えました。楽しむにはとても良い場所だと思いますが、学生が勉強のために行く場所ではないと思います」
「まぁ…そうですよね」
「ゲームセンター、カラオケも然りです」
「なるほど」
いつも適当に決めていると思っていたけど、先生なりにちゃんと考えていたんだ。