佐伯瑛
□接客禁止令
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彼女が珊瑚礁で働くようになってから、店の客に男性客が増えた気がするのは俺だけだろうか。
客が増えるんだから、特に問題はないけど、なんとなく気になる…。ほら、まただ…
「いらっしゃいませ〜」
「ふたりです」
「2名様ですね、こちらへどうぞ」
入って来た大学生風の男ふたりに彼女は笑顔で応対している。
特に対象を決めているわけじゃないけど、喫茶店は女がおしゃべりしたりするところだと思っていたし、そういう雰囲気が好きだった。だからむさくるしい男たちが、男同士で喫茶店に来るという行為には理解できないでいる。しかもわざわざ海辺まで来て長い階段を昇ってだ…
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
「どうも」
じいちゃんと俺はカウンターで調理や皿洗いをしているためフロアは彼女ひとりになる。おかげでパタパタと走り回るくらい忙しそうだ。
「3番テーブルにケーキセットモカ1、ブレンド1です」
「了解」
最近忙しさで、こいつのことを見張ってやれないのがやりきれない。たまにいるんだよな、生意気に声かけてくるやつ…
「瑛、ぼーっとするんじゃない」
「え!あ、ごめん」
彼女をつい目で追っていたら、じいちゃんに叱られてしまった。
「すみませ〜ん」
女性客が彼女を呼び出した。いつも来てくれる3人組だ。しかし、呼ばれて間も無く、彼女がパタパタとこちらに駆け寄ってきた。
「佐伯君、なんかお客様がね、珊瑚礁のこと雑誌に紹介したいっていってるんだけど、どうしよう」
「雑誌?」
「うん。私じゃ対応できないから佐伯君行ってきてくれない?」
「しょうがないな」
「よろしくね」
そういうと、さっきの大学生に呼ばれて注文を受けに行ってしまった。
「…そういうことでよろしくお願いします」
「そっかぁ、うん、わかりました」
「では失礼します」
雑誌に紹介したいとか、テレビ取材は一切断ることにしている。本当は繁盛するためには受けたほうがいいんだろうけど、俺は今のままで結構満足しているからだ。
カウンターに戻ると、あいつが大学生と何やら楽しそうに話をしているのが見えた。しかも一人は彼女に耳打ちしてるじゃないか。
――な!なにやってんだ〜
と思っているが口には出せずにいる。
「瑛、レジ頼む」
「………」
「瑛!!」
「あ、今行くよ」
じいちゃんから、ふぅと溜め息が漏れる。
俺は悪くないんだ。あいつがヘラヘラするから…、と頭の中で言い訳する。