佐伯瑛
□ケンカ両成敗
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「…ちょっと、いいかな？」
いつもそうやって私を呼び出す声が今日は少し違っている。呼び出したのは佐伯君ではなく、同じ学年の男子だった。
言われるとおりに廊下に出ると、その男子が回れ右をしてこちらを向いた。
「あのさ…オレ、君のこと好きなんだ」
「え！？」
人が行き交う廊下で、名前も知らない異性から初めて告白された。
彼曰く、移動時間の時に私が彼の教科書を拾ったことがあるらしく、その時から気になるようになったらしい。あいにく、私にはその時の記憶がない…。
「えっと……」
何せ告白なんてされたことがないのだから、どうしたらいいのかわからない。
「ごめん、急に言われても困るよね…。でも自分の中で押さえきれなくなっちゃって、どうしても伝えたいって思って…本当にごめん」
何度も頭を下げて必死に謝っている。
「いえ…ただビックリしちゃって」
そういえば水島さんが告白されている場面に何度か遭遇したことがある。その時は気にしてなかったけど、なんて言って断ってたかな、と一生懸命思い出す。
「付き合って、とは言わないよ。ただ友達からでも始めてもらえないかな？」
「友達…」
友達なら多いほうがいいし、付き合ってと言っているわけじゃないから良いかな、と思ってしまう。
「いまさ、友達ならいいかもって思っただろ？」
そう言って現れたのは佐伯君だ。いつからか話を聞いていたらしい。
「佐伯君!!」
「なぁ、思っただろ？」
なんだか少し怒っている。
「思ったよ…。思ったけど佐伯君には関係ないでしょ」
「関係ないだぁ？よく言うよ」
「だってそうでしょ。告白されたのは私だし、答えを出すのも私だよ」
「だからって何処の誰かわかんないやつと、はいそうですか〜って簡単に友達になるのか？」
「なるよ、なっちゃいけないの？」
「あぁ、ダメだ」
「何でよ！」
「あ、あの…」
「あんたは黙ってろ!!」
「は、はい…」
「ちょっと彼は悪くないじゃない」
「大体お前はいつもそうだ。この前もナンパしてきたやつにデレデレしてるし」
「してない」
「どうだか…」
「それだったら佐伯君だって私以外の女の子にはデレデレしてるでしょ」
「しょうがないだろ、勝手に寄ってくるんだから」
「勝手にねぇ、こんな佐伯君のどこがいいんだか」
「はぁ？それはこっちが聞きたいね。あんたさ、こいつのどこが良くて告白してきたわけ？」
「オレは、その…」
話に入るなと言われたり、突然振ってきたり、告白男子も困っているようだ。
しかもいつの間にか廊下や教室に人が集まってきている。
「答えられないのか？あんたの気持ちはそんなもんなんだ」
「突然聞かれれば困るに決まってるでしょ」
「俺は困らない。俺はこいつの全部が好きだって言い切れるからな!!」
「え……」
「ん？？」
勢い余って告白したことに気付いていない。
「佐伯君、いまなんて？」
「え…俺いまなんか言ったか？」
「私のこと好きだって…」
「！！！！」
「やっぱり…。佐伯君と付き合ってるって噂ほんとだったんだ」
告白男子があきらめた様子で、この話はなかったことにして、とクラスに戻っていってしまった。
しかしギャラリーは減らない。このマズい状況から抜け出すために、佐伯君は私の腕をつかみ歩き出す。
「ちょっと来い」
「え？ちょっと…」
コソコソと話をしているギャラリーたちをすり抜け、私は屋上へと連れ出された。