佐伯瑛
□葉月珪に感謝
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「撮影!?」
店のマスターであるじいちゃんが、俺たちにある提案をしてきた。
「あぁ…この前モデルをしている葉月珪さんが来ただろう?どうやらこの店を気に入ったらしく、雑誌の撮影のために使いたいと連絡があったんだよ」
先週、平日の閉店間際にあの人気モデル葉月珪が珊瑚礁にやってきた。突然のことで、さすがの俺も驚いたが、一番驚いていたのは、あいつだ。あらゆる雑誌の表紙を飾っているあの葉月珪が、目の前にいるのだから当然だろう。
「すごいじゃないですか!」
是非やりましょうよ、とすでにやる気満々のあいつが答える。
「瑛はどう思う?」
「俺は……」
店の宣伝になるし、客が増えてくれるのは嬉しい。けど、客が増える=忙しくなる=こいつと出かける時間が少なくなる…
一瞬のうちに次から次へと先のことを考えてしまう。
「ねぇ、良いじゃん、こんなチャンスめったにないよ」
お前は葉月珪に会いたいだけだろうが。
「でもさ、変に騒ぎになったりしたら厄介だし…」
「それなら大丈夫だそうだ。浜の方まで警備すると言っていたよ」
さすが葉月珪さんですね、とあいつが感心している。
「客が増えすぎると、その後大変だし…」
「お客さんが増えて困るなんて贅沢な悩みじゃない」
やる気満々の彼女を止める何か良い理由は無いものか…
「ほら、俺がここで働いてるのがバレたら…」
「佐伯くんが写るわけじゃないでしょ」
うっ……そうだけどさ…
「ねぇマスター、やりましょうよ〜」
「そうですねぇ…」
甘えた口調でおねだりしているあいつに、じいちゃんも負けそうになっている。
「……もう勝手にしろ」
他に理由が見つからないと判断した俺はもう反論することを諦めた。
「ホントにいいの?佐伯くん、大好き〜!!」
だ、大好きだぁ?
普段なら絶対に聞けないセリフをこんな形で聞くことになるとは思わなかった。
「そうと決まれば、着る服とか選ばなきゃ」
「お前が写るわけじゃないだろ…」
さっき言われたことをそっくりそのまま言い返したが
「葉月珪さんに会うんだよ?キレイにしないと失礼だよ」
真剣にそういうから、俺は何も言い返せなくなってしまった