ときメモGS
□いただきます(氷×主)
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私は滅多なことでは動揺しない自信があった。
しかし、こんなにも私を動揺させることが起こるとは思わなかった。
――喫茶珊瑚礁にて
私と彼女が来ている場所はというと、彼女がお勧めだと言い張る海岸沿いなある小さな喫茶店。家族経営なのか店員は少なく、客も多いとは言えない程度だ。
「先生は何飲みますか?」
「私はコーヒーで結構」
「そうですけど、コーヒーにもいろんな種類があるんですよ」
「コーヒーと言ったらコーヒーだ」
「もう…」
「構いません。お決まりになりましたらお呼びください」
「すみません…」
そう言って現われたのは若い店員だ。大人びて見えるが高校生くらいだろう。うちの学生ではないということは羽ヶ崎学園の生徒か…そんなことを考えて、しばらく店員の男を眺めていると、店員もこちらに気付いたようだ。
「お決まりですか?」
「え。あっ、いや…」
「お勧めのコーヒーってありますか?」
すかさず彼女が合いの手を入れた。
「お勧めはやはり珊瑚礁ブレンドです。うちのマスターがブレンドしました」
「珊瑚礁ブレンドかぁ…じゃあわたしはそれをお願いします」
「かしこまりました」
「先生は…」
「私にも同じものを」
「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」
そつなく接客をこなしている姿を見ると、大学生くらいに見えなくもない。
「先生とこうしてふたりで出かけるのって久しぶりですよね」
「そうか」
「そうですよ!」
確かにそうかもしれない。新学期が始まり、お互い忙しい日々を過ごしていたためにデートなどしている時間が無かった。
「すまない」
「えっ、なんで謝るんですか?」
「いや…その…君が寂しい思いをしたのではないかと思って」
「うふふっ、それは先生でしょ?」
「な、何を言う!!」
「寂しく無かったんですか…?」
「っ……」
わざとだとわかっていても、好きな女性にそう言われると誰でもたじろいでしまうだろう。
「そんなことを考える時間など無い」
すると、期待していた言葉が返って来なかった彼女は拗ねてしまったようで無口になる。
そんな彼女を見兼ねて「なにかデザートも頼みなさい」と付け足す。
すると眩しいくらいの笑顔を私に見せてくれた。この笑顔が見れなかったここ数日が嘘のように感じられる。