夢幻

□横浜リリー
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『…他愛もない。
いや…むしろ呆気ないな…。
…こんな奴に、消されたなんて…さぞかし悔しかっただろう…コーコ(兄さん)』



夜明け前の、港町の倉庫街。

普段は、人気観光スポットとして人の集まるこの場所だが、今はそのような雰囲気は微塵にも感じられない…。


ただ、白く冷たい月の光に青白く照らされ、倉庫は不気味さを増しているようだった…。


…バァーン !!!




渇いた音が、静かに倉庫街に響きわたった!



この先にある埠頭の端に程近い倉庫で何かが起きたようだ。



例の倉庫の前では、深紅のチャイナドレスを身に着けた美しい女性が立っている。

しかし、その手には銃口からまだ硝煙の立ち上ぼる拳銃が握り締められていた!

そして、彼女の目の前には…血を流し倒れている男性の姿がある…。

それを彼女は、表情を少しも変えず冷たい視線で静かに見つめていたのだった。

撃たれたであろう男性は胸から大量の血を流し、倒れたまま微動だにしない…。


『…くっ、
…て…てめぇ……
…よく…も、……を…うぐっ…っ!!!』

男性は胸を抑え、信じられないと言いたいように彼女を睨み、途絶えそうな息の中掠れた声で言った。


『フフフフっ。
謀られた事も分からないなんて、…馬鹿な男…

サンチェ(じゃあね)
…主人に忠実な狼さん
…地獄でお逢いしましょうw


そう…艶っぽく彼を見て妖しく笑うと、女性は彼に背を向け立ち去ろうとした……。


…………………


……………


…………


………


……







バァー…ン



再び、静かな夜の港に一つの銃声が悲しく響いた…。



そのすぐ後に、緋色の奇麗な花を咲かせて、美しい姿は漆黒の海の中に落ちて行った…。


『……ちっ。…俺とした事が…ドジ踏んじ…まった…!』


男性は、懐から拳銃を取り出すと…立ち去って行く標的に向けて引き金を引いていた。




…こんな結末じゃなかった筈だろ…



冷たい夜風が、彼の頬を優しく撫ぜて行く…。



知らず知らずのうちに、彼の頬を沢山の涙が伝っていった…。






横浜リリー
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