宝物小説(戴き物小説)4

□happybirthday
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年に一度の大切な日。

とびきりの一日を君に。









ピンポーン

朝早くから呼び鈴が鳴る。
今日は珍しくオフだから何をしよう、などと考えていた岬は突然の来訪者に首を傾げながらも玄関の扉を開けた。
と、目の前に赤が広がり次いでフワリと良い香りが漂う。

「岬、誕生日おめでとう」

目の前に差し出されたのはどうやら薔薇の花束で、薔薇の向こうには微笑む若林の姿。
状況が飲み込めず目を丸くしていた岬も瞬きを繰り返すと理解し、驚きを隠せないながらも自然と頬が緩む。

「…若林くん…ありがとう」

今日は5月5日、岬の誕生日なのだ。
翼や新田になぜか昨日のうちに祝ってもらい、岬は今日こそが自分の誕生日なのだという事をすっかり忘れていた。

(そっか、今日だった…てっきり、若林くんは忘れてると思ってたのに…)

「おい、今何か失礼な事考えなかったか?」
「えっ、う、ううん、そんな事ないよ。わざわざありがとう。凄いきれい…それに、良い匂い」

岬がニコリと笑って礼を言うと、若林は照れたように頬をかく。
コホンと咳払いを一つすると花束を岬に手渡し、岬の肩を掴んでくるりと反転させた。

「若林くん?」
「今日、予定ないだろ?出かけるから着替えてこい」

どうして知っているのだろう、と頭に疑問が過ぎるがハタと自分がパジャマだった事に気付き慌てて室内に戻る岬の背中を若林は肩を揺らして笑った。






「今日は岬の誕生日なんだから、余計な事は気にせず楽しめよ?」
「そうは言っても…」

さすがにこれはやり過ぎなんじゃ、と出掛かった言葉を飲み込む。
どこに、とは教えて貰っていないがどこかに連れて行ってもらえるらしい。
しかし…
岬と若林の移動手段は車。
それも若林家お抱えの運転手が運転する車で、さすがにリムジンという訳ではないがそれなりに高級な車だろう。
普段二人で出掛ける時はバスや電車を使うのに…と呟く岬を特別な日だからと宥める若林だが、こんな至れり尽くせりに慣れていない岬は気が気でない。

「そう固くなるなって。そんなたいした車じゃないぞ?今から緊張してたら疲れるだろ」
「…だって僕、こんな凄いの乗った事ないよ。汚しちゃったらどうしようとか、考えちゃうし…どうしたら良いのか分からない」

岬が正直に答えると若林は黙り込み思案する。
と、不意に岬の唇を奪った。

「汚したらキス一回。緊張しててもキス一回。決まり、な」





目的地に着く頃には、岬は耳まで真っ赤にしていた。
結局車内で何かと理由を付けてはキスをされ、若林は満足そうに車を降りる。

「…水族館…?」

ようやく落ち着いた岬の視線の先に、入場ゲートらしきものと可愛らしいイルカのパネルが飾られている。

「水族館、来た事ないだろ?たまにはこういうデートらしいデートも良いんじゃないかと思ってな」

歩き出す若林の隣を並ぶ岬は小さく頷くが、相変わらず視線は未知の領域から離れない。
ソワソワと落ち着かない岬を連れて中に入るとその瞳は更に輝きを増した。

「…っ!」

一面に広がる青の世界。
水は光を反射しキラキラと光って、光の合間を魚達が泳いでいく。
まるで自分が海の中にいるような、そんな感覚。

「す、ごい…」

ボーっとガラス越しに見る光景に夢中になる岬の背を若林が軽く押してやりながら歩いていく。
思ってもみなかった誕生日のサプライズに岬は心底喜び、並ぶ若林に極上の笑みをみせた。

「若林くん…本当にありがとう…僕、こんなの初めてで…とにかく、すごく嬉しい…」
「せっかくの誕生日なんだ、これくらい…それに、これで終わりじゃないぜ?ほら、あっちも。行くぞ、岬」

再びゆっくりと歩き出した二人の手は自然と絡まり、一日水族館デートを満喫するのであった。






「若林くん、今日は本当にありがとう。こんな祝ってもらった誕生日初めて」

あれから岬は水族館を楽しんだ後、観覧車に乗り更には有名ホテルのレストランにまで連れて行ってもらった。
日付もそろそろ変わろうかという頃、岬の家の前に車が止まる。
律儀に運転手にも礼を告げ車を降りる岬に続いて若林も車を降り、ポンと頭に手を乗せて愛しげに撫でる。

「若林くん?」
「岬にもう一個、プレゼント」

不思議そうに首を傾げる岬の左手の薬指に銀が光る。

「…え…?」

光るリングの意味を理解すると嬉しいような恥ずかしいような、それでも嬉しさが勝って熱くなる頬を隠しきれない。

「じゃ、おやすみ」

それ以上は何も言わずそっと口付けを落とすと若林は岬の背を押し家に入るように促す。
あまりに突然の出来事にされるがままの岬は促されるまま中へ入ると真っ赤な顔のままへなへなとその場に座り込んだ。

「若林くん…こんな…反則だよ…」


大好きな、大切な人と過ごす忘れられない誕生日。

薬指に光る銀が幸せそうに微笑む岬をうつしていた…






おまけ

新「岬せんぱ……っ!」
岬「ん?」
新「そ、それ…!」
岬「え?あっ…外すの忘れて…!」
葵「なになに、どうしたんですかー?」
佐「あ、指輪」
翼「…若林くんから、だよね?」
岬「う、うん…(恥ずかしい…)」
源「ま、そういう事だ。岬には手出すなよ」


終わり。
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