宝物小説(戴き物小説)4

□ハンブルグでお茶を
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「さ、どうぞ。」
まるで執事みたいに、丁重にドアを開けてくれた。
「…ダ、Danke schon.」
「Bitte schon.」
笑いながら、部屋の中へと導かれて。

「ごめんな、散らかってて…。とりあえず、そこのソファに座っててくれ。」
言われた通り、モスグリーンのソファにちょんと腰かけて、その辺を片付けたりお湯を沸かしたりする若林くんという、珍しいものを見させてもらった。

お湯が沸くと、実家から送ってくるという日本茶を入れてくれた。
おそらく若林邸御用達の高級茶だろう。
「いただきます。」
美しい緑色の煎茶をゆっくりと堪能した。
「おいしい?」
「おいしい!」
若林くんはずっと上機嫌で、ニコニコして僕を見ている。

それほど親しかったわけでもないのに、雑誌の記事を見かけただけで会いに行くなんて、練習で忙しい若林くんの迷惑になるんじゃないかと不安だった。
ありったけの勇気をふりしぼり列車に乗った僕だけど、そんな不安も心配も、お日さまみたいな笑顔で迎えてくれた君が、一気に吹き飛ばしてくれた。

「腹へったよな。ちょっと待ってて。ありあわせで何か作るから。」
「えっ?!」
あの若林くんが料理…。
冷蔵庫あけて、材料さがしてる…。
じゃがいもと玉ねぎ出してるし…。
固まってしまった僕に気づいたのか、若林くんは苦笑い。

「珍獣でも見るような目はやめてくれ。料理は得意だぜ。ここの大家さんに習ってな。最初は俺、何にもできなかったからさ、心配して差し入れてくれたり…。ありがたかったなぁ。」
しゃべりながら野菜の皮をむき、ソーセージをボイルしている。
野菜と豆を入れたフライパンを、豪快かつ繊細にふるう姿がサマになって、かなりカッコイイ。

夕食はめちゃめちゃおいしかった。
僕には珍しくお代わりまでしちゃった。
お腹が空いてたからだけじゃない。
若林くんと向かいあって食べるのが、こんなに楽しいなんて知らなかった。

「岬の食べ方、綺麗だよな。」
「そ、そうかな…。普通だと思うけど…。」
「自然なんだけど、品があるっていうか…。」
「…ただパクパク食べてるだけだよ…?」
「ずっと見ていたい。」
「食べづらいからやめてよ?…。」
思わず顔をしかめてそう言うと、若林くんは楽しそうに笑った。
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