宝物小説(戴き物小説)4

□captured
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最低最悪の試合。
ブーイングされて、頭を下げて。
――当たり前だ。あんな試合!

悪天候の中、声を枯らして。
なのにボクらは勝てなくて。
ブーイングされて、当たり前!




久しぶりにヘコんで、情けなくて、やりきれなくて。
キミの顔が浮かんだけど、携帯を握り締めたけど、けど、でも、そんな弱い自分に負けたくなくて。

なのに……

突然目の前に現れたキミに、ボクは言葉を失った。


…そっか。そうだったね。
キミ達のリーグはシーズンオフに入ったんだったね。
…そっか。観たんだ、あの試合。
最低!…最悪。


遠征先のホテルに突然訪ねて来て、部屋に入るなり後ろ手にドアを閉める。


「キツい試合だったな。」


分かってる。キミは甘やかしたりする人じゃない。
そう、サッカーに関しては。

ボクの名を呼び、ニヤリと笑う。


「本当は淋しかったんだろ?」


…何だよ。
何でそんな事、今ココで言うんだよ。


「そんなに睨むなって。隠さなくても分かるんだぜ?」


なら、言わなくてもいいのに。
相変わらず、意地悪だね。キミは。


「お前が素直じゃないからだろ?」


仕方ないじゃないか。負けたくないから。
弱い自分に、ボクは負けたくなんてない!


「いい加減、もう認めたらどうだ?」


そんなの…無理だよ。
ボクはそんなに強くないから、キミに捕らわれるのが怖いんだ。

凄く怖い。だから……ごめん。





「ちょ…何!やめ…わかっ…」
「…無理っ!」
「な、んでっ…んっ…」


キミの情熱に押しつぶされそうで、怖くて辛くて、でも嬉しくて泣きそうで…自分を上手くコントロール出来ない。
逃げ出したい程怖いはずなのに、その一方でボクの手はキミのシャツをぎゅっと掴む。
どれが本当のボクで何がウソなのかも、もう全く分からない。


「降参だよ岬。淋しかったのは、俺。」




やっと息が出来るようになったボクに、そう告げたキミの眼差しはとても優しくて……そうやってまた、ボクはキミに捕らえられるんだ。

ずるい…ずるいよキミは。



「あっ…」
「今日は…くれっ、」
「わ、かばやし、く…」
「…岬ごと全部っ!」





〈おわり〉
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