宝物小説(戴き物小説)3

□リラックマの抱っこ
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 僕の部屋には大き過ぎる荷物に途方に暮れる。宅配便の人達と必死で運び入れたものの、部屋まで連れて来た途端に、僕は倒れ伏した。
 若林くんからの時期外れの荷物は、特大リラックマ。可愛い茶色の毛はフワフワで、丸い目は黒い。

 ただ、大き過ぎるんだ。

 あんまり大き過ぎて、抱きついたら、まるで僕が抱っこされているみたいになる。リラックマベッドになるんじゃないかと思う位大きくて、ベッドにも乗らない。普通の家のサイズを考えてよ、と言いたくなる。

 でも、嬉しい。抱きついて、大きな胸に顔を埋める。ほんのり温かくてお日さまの匂いがするのは、まるで誰かさんみたいだ。ちゃんと帽子も被っているし…。

 ふと目が覚めた。僕は大きなリラックマに抱きついたまま、眠ってしまったらしい。運ぶのに疲れていた上、本当に温かかったのだから仕方がない。それにこんなに気持ち良いんだから…と思いかけて気付いた。自分がリラックマに抱っこされていることに。

 慌てて飛び起きて、リラックマの背後にまわった。リラックマの背中にはチャックがついている。それは他のぬいぐるみも同じ仕様なんだけど…チャックはすぐに動いた。
「若林くんっ!」
リラックマの中に入って前足で僕を抱いていてくれた人は、悪びれもせず、ニコニコしていた。
「驚いたか?」
「もう何してるのさ!」
驚き半分恥ずかしさ半分で、つい口調はきつくなる。当然だよ。間違いなく特注だもん。それを注文して、中に入って、実家から宅急便で送られて来るなんて、どんな遊びだよ。でも若林くんは楽しそうな笑顔を向けてくる。
「岬に抱きついて欲しかったんだよ」
冗談めかした言葉だったけれど、顔に血がのぼる。最近、チームが連敗していた。何とかしないと、と焦る矢先に、試合でケガをした。肩はたいしたことはないけれど、 大事をとって休ませられた。
 そんな時だってある。そう思っていても、渦の中では息も苦しいんだ。
 だから、もしかするとリラックマに抱きついて眠った僕は泣いていたのかも知れない。それを分かっていて、僕を簡単に包んでくれる若林くんには敵わない。
「おいで。リラックマよりは包容力あるから」
座ったベッドから伸ばされた手に、手を重ねた。



(おわり)
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