宝物小説(戴き物小説)3

□fall for Love 若林
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〈Side:若林〉

いつもの時間。
いつもの場所で。

恋人の乗る飛行機の到着を待つ。


***


「久しぶり、若林くん。」

自分を呼ぶ愛しい声に振り返る。


──数ヶ月ぶりに会う岬に、嬉しさよりも先立つ違和感。


怪訝な顔をした俺に、岬が首をかしげる。

「?…何?」

「イヤ…髪、」


視界を遮る前髪がないほど短く刈られたその髪型に驚いた。

「ああ、思いきって短くしてみたんだ。」

そう言って笑う岬は、優しい風貌に幼さが加わり、いつも以上に無邪気に見えた。

「荷物、それだけか?」
「うん。あとは君に借りるよ。」

会話をしながら、実はさっきから気になって仕方のない岬の髪に手を伸ばし、すいてみる。柔らかな手触りに変わりはないが、サラサラと流れない事を少し残念に思った。


人前で触れ合う事を嫌う岬だが、今日はお咎めはなく目を細めて微笑む。

「…やっぱり、変かな?」

「変じゃないよ、短いのもよく似合ってる。」


『可愛い』

喉元まで出た言葉を飲み込む。

今ここで抱きしめたら、やはり怒るだろうか。


「小次郎には“オマエ誰だよ”って笑われたんだ。」

「そんなの気にするな。岬は岬だ。」

「うん。ありがとう。」


名残を惜しむように、うなじから耳元を一撫でする。

その時、ふと目に留まった新たな発見。
どんな小さな事でも、岬に関することならば嬉しくて、思わず頬が揺るんでしまった。


***


「何!?いきなりなの!?」

玄関に入るなり、節操なく抱きしめ岬を求める。
ずっと、我慢していたんだ。お前が欲しくて。


「岬不足なんだ。早く補充させてくれ。」

長旅で疲れているだろうが、どうせ今日はもう眠るだけだ。岬には申し訳ないが、抵抗も構わず愛撫を続ける。

「…まったく」

岬のため息が吐息に変わるのに、時間はかからなかった。


***


さっき見つけた耳の後ろに並ぶ2つのホクロ。
短髪にしなければ気がつかなかったそれは、極限られた人物(親父さんか美容師か)以外、自分しか知らないはずの岬の一部。

やたら耳の後ろの印ばかりが気になってキスを続ける。
今まで攻められ慣れてない場所へのキスに、岬はいつもより敏感に反応する。


「ちょっ…若林くん、今日はどうしたの?もうやめて…あっ」


「その髪型の所為で…お前なのに、お前じゃないみたいで興奮する。」


いつもと違う岬を抱きながら、不謹慎ながらも新鮮な気持ちになってしまった。


「浮気してるみたいだ。」


つい気持ちが声になり、それを聞いた岬は少しむっとして眉をつりあげる。


「何それ。僕は僕だよ…浮気とか言わないで…」


スネているのだろうか。
首に腕をまわされ囁かれた言葉に、歯止めが効かなくなる。


「悪い、手加減できそうにない。」


***


まだ起きる気配のない岬の髪をすいてみる。
前髪で隠れる事のない穏やかな寝顔を見て、愛しさが込みあげる。



「浮気してるみたいだとか言ってごめん。俺にとっては浮気の相手さえもお前なんだ。信じろよ。俺には一生、お前だけだ。」



おわり
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