宝物小説(戴き物小説)3

□クラスメート
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俺が岬と友だちになって一年が経った。中学校に入りたての頃の岬の印象は誰にでも優しくて親切で、今でもそれは変わっていない。
親しくなったのは、クラスで同じ班になってからだ。推薦で岬が班長で俺が副班長になり、何かと話す機会が多くなった。俺はあんまりしゃべる方ではないし、自分から友だちを作ろうとするタイプでも無い。岬とは体格も性格も全然違うのに、妙に気が合った。
「若林くん!転校するって本当?」
登校したての俺に岬が飛んで来た。
「お父さんが転勤するって聞いたよ。海外に行くって。だから若林くんも‥」
「行かねえよ。誰だよ、そんなデマ流してんのは?」
「良かった。」
岬が嬉しそうにニッコリ笑った。岬の笑顔を見ていたら、俺の不機嫌はどこかへ飛んでいく気がした。
「どうかした?僕の顔なんか付いてる?」
俺はじっと岬の顔を見ていたらしい。
いや、俺この頃岬の笑顔の種類に気付いたんだ。」
「種類?」
「そう、いつも同じ様で微妙に違う。さっきは本当に嬉しそうだった。」
岬は不思議そうな顔をしていた。
放課後、岬と2人で帰る途中、また転校の話になった。
「岬は俺が黙って転校したらどうする?」
軽い気持ちで聞いてみた。岬はしばらく黙っていた。やがて小さな声で呟く様に言った。
「…絶交だよ。黙って行ったりしたら…」
「えっ?」
岬は珍しく怒った顔をしていた。
「僕、若林くんとは親友だと思ってる。だから、黙って行くなんて許さないからね。」
岬は真剣な表情で俺を睨んだ。俺は正直嬉しかった。岬には友達がたくさんいて、俺もその中の一人だと思っていた。『気が合う』なんて思っているのは自分だけじゃないかと思っていた。
「分かった。」
俺がそう言うと、岬はやっと笑ってくれた。俺の大好きなあの嬉しそうな笑顔だった。



(終わり)
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