宝物小説(戴き物小説)5

□独楽
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「…何これ」
確かに、賭けに負けたら、コスプレしても良いと言った。それが、まさか。
「君、こういうのが好きなの!?」
声を荒げた岬に、若林も譲る気はない。
「ああ。俺が持っているのは、これだけだ!」
無失点宣言並に雄々しく言い切った若林の手には、女子用の体操服がある。

 そもそも、若林が勝負を挑んできたきっかけもおかしかったと岬は思い返す。いつもなら、会った途端にまずベタベタする若林が、ごく紳士的だった上に、テーブルの上には独楽が置かれていた。
「兄貴からもらったんだが、うまく回せなくてな」
「そうなんだ?」
コーヒー片手に若林が語ったところによると、実家に帰った若林は、部屋を整理していた兄達が、必要な物があれば持って帰って良いと言い出したので、荷物を見た。その中に独楽があるのを見て、昔兄が独楽を回すのを見て憧れたことを思い出した。実際、若林の前で上の兄は実演し、そして独楽をくれた。
「じゃあ、教えてあげるよ」
岬は、昔独楽を持っていたことがある。独りで遊べるからと一時期住んでいたアパートの隣室の老人が教えてくれたのだ。
 それから独楽教室が始まった。ブランクの割にはうまく回す岬に、若林も感心している様子だった。その様子に気をよくして、岬は若林に独楽の回し方を説明した。若林は岬の説明をすぐに理解した様子で、数度試す内に、うまく回すようになった。
「これなら、すぐにでもできそうだな」
「うん。若林くんは上手だね。すぐに追い抜かれそうだよ」
付き合っているとはいえ、元々初心な岬は若林が隙あらば触れようとするのが恥ずかしかった。事あるごとに可愛いと誉め、目を細める若林に、岬はいちいち赤くなった。
 それでも、岬は若林といると繕わずにいられることをよく知っていた。そんな自然体で楽しく過ごせるのが嬉しくて、ついはしゃいでさえいた。
「じゃあ、勝負するか?」
「強気だね。良いよ」
「よし。岬が勝ったら、欲しいものなんでも買ってやるよ。俺が勝ったら、コスプレしてくれ」

 そして、勝ったのは若林だった。

「まあ、若林くんに騙されたにしても、条件をOKしたのは僕だしね」
顔の割に男らしいとよく言われる岬らしく、ため息交じりに衣装を広げた。
「大体、こんなのどこで手に入れるんだよ」
「それは下の兄貴にもらったんだ。未使用らしい」
「…はあ」
ため息が止まらないまま、岬は服を広げる。ジョークコスプレ用ではないらしく、きちんとした生地なのは幸か不幸か。
「シャツは入りそうだよ」
観念した岬はシャツを体に当ててみせた。大人の女性サイズならば、細身の岬には十分だった。
「それは楽しみだな。じゃあ、下も入るな」
双方にとって、それが問題なのは確かだった。ブルマ姿をどうしても見たい若林と、断固拒否したい岬と。
「こっちは多分無理だと思うよ」
「一応履いてみてくれ」
若林は退く気はないらしい。
「こっち見ないでね」
岬は後ろを向いてズボンを下ろすと、しぶしぶブルマを手に取り、履いてみた。
「履けるじゃないか」
「こっち見ないでって言ったのに」
顔を赤くして憤る岬だが、若林の耳には入っていない。恋人の相変わらず魅力的なお尻を強調するブルマ姿に、一目で魅了されたためだ。
「岬!!」
「見ないでよ!」
仲間うちでは一番最初に誕生日を迎える岬はもう十五歳だ。若林と再会を果たし、恋人になって、そういう関係はあっても、女装をすることには抵抗感は強い。
「さあ、着たよ!」
それでも約束は約束である。上下とも体操服姿になった岬は、真っ赤な顔で立ち上がった。
「おお!」
若林が歓喜の声を上げるのも無理はない。華奢だがうっすらと筋肉のついた岬の肢体は、体操服によって強調されている。特に腰回りからお尻、足にかけてのラインが際立ち、細い足やウエストに比べて、張りのある形の良いお尻が目立つ。
「若林くん、ちょっと…」
迷いなく触ろうとする若林に、岬はたじろぎ、後ずさりしようとする。だが、恥じらいのせいで、少し内股になっている状態では、獰猛な獣の前では無力だった。
「岬っ!」
「ちょっ、やだっ」
たちまちその場に引き倒されて、岬は抗った。リビングの床には毛足の長い絨毯にラグマットが敷かれていて、ふかふかしているが、そんな問題ではない。このまま抱きつかれたら、その後は決まっている。
「だ…め」
キスをされてしまったら、その後は蕩けさせられたまま、いただかれてしまう。岬は胴に腕を回されたまま逃げようとするが、力の差は歴然としていた。

 すべすべした肌の手触りを楽しみながら、若林が足を撫で上げる。
「相変わらずきれいな足だな」
「これでも随分筋肉がついたんだけど」
「張りがあって、良い足だぜ」
「そう言いながら、手を入れるのやめてよ」
 色白の頬を赤く染め、岬は切なげに眉根を寄せる。
「気持ち良さそうだな」
「君が触る…から」
普段から高い声が掠れて、更に甘く聞こえる。濡れて僅かに開かれた唇に、若林はたまらず自分の唇を押し付けた。
「んんっ!」
合わさった唇の隙間から、唾液がこぼれ落ちた。

「そこばっかり触らないでよ…」
「体操服、乳首が透けてて、ますますやらしいぜ」
いつもなら、すぐに服を脱がされるのが、今日はあくまで体操服を着せたまま、若林は岬に触れる。上着の裾を捲り上げ、忍び込む手に乳首を執拗に擦られて、岬は体をよじる。
「お尻も触りすぎだよ」
「こんな可愛いのに、我慢できる訳ないだろ」
同い年の、同じスポーツの選手であるのに、岬はどうしてこんなに可愛いのかと若林は思う。昔初めて会った日に一目ぼれした可憐な面差しのまま、岬はいつも若林の心を駆り立てる。もっと欲しくて奪いたくて、いくら抱いても足りない。
「あっ、や…」
ブルマの上から敏感な部分を触れられて、岬は高い声を上げた。さっきまであちこち撫でられたり、擦られたりしたせいで、体は既に反応し始めている。

 会う度に、その溢れる性欲をぶつけてくる若林だが、自分から会いに来ただけあって、岬は若林のことが以前から好きだった。父親と二人きりの生活で、どうしても頼りになる存在には弱い。父親のような背中に加え、落ち着き払った物腰や独特の存在感は、岬を意識させるには十分だった。一旦気になってからは、男らしく整った顔や、低いのに優しく響く声にも気付いて、ますます好きになってしまった。
 岬はあまり素直ではないのと、プライドが邪魔して、若林の外見にも惹かれているとは言いたくない。若林の和風で端正な顔が近付く度に、胸の鼓動はメーターを振り切るし、甘く囁かれると逆らい難い。
「若林く…ん」
潤んだ瞳に見つめられて、若林が息を飲む。汗に湿った髪が、岬の頬に張り付いて、妙に色っぽく見える。
「岬…入れるぞ」
若林に押し切られるふりをしながら、岬は愛されることが嬉しくて仕方がなかった。半ば強引なやり方も若林の強すぎる愛の証に思えて、岬は涙を浮かべたまま若林の首に手を回した。



(おわり)
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