『short novel』

□スマイル
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キュッ、キュッー…。

ダムッ、ダンッ…。



冬一色の昼下がり、聞こえてくるは、甲高いスキール音。


広い体育館には私と、コートで縦横無尽に動く、私の想い人。

その光景を見ているだけで鼓動が高鳴り、彼に対する視線は熱くなる。


「……ふうっ…。」


ダム、ダム、とボールが弾み、それに伴って彼の息もリズムを刻む。

彼が汗を拭うとその綺麗な髪が輝きを増して揺れる。

ああ、私、こんなにまで彼に恋してるんだ。

はっきりと確信を持つ。

好きで好きで、どうしようもないって。



「…えっと…、」


「あ、え、…な、なに?」


「後片付け、僕がやっておくからさきに上がってもいいよ?」


「あ、ううん!平気平気っ。そういうのマネージャーの仕事だし…。」


(それに、)


努力する君の姿を独り占めしたいから。

なんて、言ってみたらどうゆう反応するかな…。

想像しただけで顔が熱くなっちゃう…。





「いたっ…!」



突然、彼は表情を歪めてハンドリングをしていた左手からボールを離してしまった。


「…どうしたの?」


「いや、…指切っちゃって…。」


「大丈夫?ちょっと見せて?」



私は返事を待たずに彼の左手を掴んた。



(あ、)



無意識だった。

私は、憧れていた彼に、初めて触れ、初めて彼の鼓動を感じとった。


細くて長い指についた傷。
救急箱から取り出した消毒液をそーっと付けていく。


「いった…。」


「ご、ごめんね?染みる…?」


「大丈夫大丈夫。…この時期、手が乾燥しちゃってたまに皮が切れちゃうから…。」


ほら、と開いた逆の右手にも絆創膏が貼られている。

それだけ努力してるんだなぁ…。


いつも遠くから見ていた彼が、こんなに近くにいる。

だからかな、想いがとめどなく溢れてくる。


ほら、こんな感じに。


(…好き。)
「…好き。」





「……なに?」


「…?あ、えっ?……、」



私っ…、言葉にしちゃったっ…。


『好き』って、こんなタイミングで、彼に伝えちゃった…。



「………。」


「………////」


(恥ずかしいっ…////)


顔は熱い、鼓動は速い、涙が出そう。


けど、



この繋いだ手は、離したくないな…。


ずっと、手を繋いでいたい。


それならば、



(…もう一度、私の想いを伝えてみよう。)



『好き』って伝える限度はないんだから。

いっぱい、いっぱい、伝えてみよう。




「…あのね、私、あなたのことがー、」



必死に伝えた淡い恋心。

届いてくれたら、笑って欲しい。


『一緒にいるよ』って笑ってくれたら、もっともっと、好きになっちゃう。





あ、彼の笑顔が、綺麗に咲いた。




fin

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